Barthel Index(バーセルインデックス):評価方法の詳細

はじめに

Barthel Index(BI)の評価方法(採点基準)などについて詳しく解説します。

原著論文1)に基づいています。

ADL の評価指標としては,BI は FIM と並んで有名です。

正式な手続きを経た日本語版は無いようです。

Barthel Index の概要

原著では,まず簡単な表が載っています。

介助自立
1. 食事(食べ物を切ってもらうなら介助)510
2. 車椅子とベッドの間での移乗(ベッド上での起き上がりも含む)5-1015
3. 整容(洗顔,髪をとかす,髭剃り,歯磨き)05
4. トイレでの立ち座り(衣服の操作,拭く,流す)510
5. 入浴05
6. 平地歩行(歩けなければ車椅子駆動)
*歩けない場合のみ採点
10
0*
15
5*
7. 階段昇降510
8. 更衣(靴紐を結ぶ,留め具を締める)510
9. 排便コントロール510
10. 排尿コントロール510

10 項目の点数を合計します。
合計点の範囲は 0 点から 100 点です。

項目ごとに点数の配分が異なります。

実際の評価は,以下の採点基準の詳細に沿って行います。

採点基準の詳細

1. 食事

10 点
自立。
誰かが手の届く範囲に食事をおけば,自力で,皿やテーブルから食事をとって食べることができる。
補助具が必要であれば自分で装着でき,食べ物を切ったり,塩や胡椒を使ったり,バターを塗ったりといったことができなければならない。
これらのことを妥当な時間内でできなければならない。

5 点
いくらかの介助が必要(上述した食べ物を切ることなどに関して)。

2. 車椅子とベッドの間での移乗

15 点
移乗の全ての過程において自立。
車椅子で安全にベッドに近づくことができ,ブレーキをかけ,フットレストをあげ,安全にベッドに移り,横になり,起き上がってベッドの縁に座り,安全に乗り移るために必要であれば車椅子の位置を変え,車椅子に戻ることができる。

10 点
移乗のいくつかの段階においてなんらかの最小限の介助が必要か,一つあるいはそれ以上の部分で安全のための促しや監視が必要。

5 点
介助なしで起き上がることができるが,立ち上がるのに持ち上げてもらったり,乗り移るのにかなりの介助が必要。

3. 整容

5 点
手と顔を洗い,髪をとき,歯を磨き,髭を剃ることができる。
どんな種類の髭剃りを使ってもいいが,刃をつけたり,プラグをさしたり,引き出しやキャビネットから取り出したりすることが手助けなしにできなければならない。
女性の場合,化粧は,するのであれば自分でできなければならないが,髪を編んだり,髪型を整えたりはできなくてもいい。

4. トイレ動作

10 点
トイレでの立ち座り,衣服の着脱,衣服が汚れないようにすること,トイレットペーパーを使うことが,手助けなしにできる。
身体を支えるのに必要であれば,手すりや他の安定したもの使ってもよい。
トイレではなく差し込み便器を使う必要があるなら,自分でそれを椅子に置き,空にし,洗うことができなければならない。

5 点
バランスが悪いために介助が必要,また,衣服の取り扱い,あるいはトイレットペーパーの使用において介助が必要。

5. 入浴

5 点
浴槽,シャワー,あるいは清拭のどれでもいいが,全ての段階において,一人でできる必要がある。

6. 平地歩行

15 点
介助や監視なしで,少なくとも 50 ヤード(45.72メートル)を歩くことができる。
装具,義肢,クラッチ,杖,歩行器(車輪付きは除く)は使ってもよい。
装具を使うのであれば,ロックおよびロック解除ができ,立位をとり,座ることができ,必要な機械的補助器具を装着し,座った時には片付けることができなければならない。
装具の着脱については,更衣で採点する。

10 点
上述のいずれかで介助や監視が必要とするが,少しの介助で少なくとも 50 ヤードを歩くことができる。

6a. 車椅子駆動

5 点
歩行はできないが,車椅子は自力で駆動できる場合。
角を曲がる,転回する,テーブル,ベッド,トイレなどにうまくつけることができる。
少なくとも 50 ヤードは進むことができる。
歩行で採点した場合には,この車椅子駆動では採点しない。

7. 階段昇降

10 点
介助や監視なしに,一続きの階段を安全に昇ったり降りたりすることができる。
必要に応じて,手すり,杖,クラッチを使ってもよいし,必要であるなら使わなければならない。
杖やクラッチは自分で運べなければならない。

5 点
上述のいずれか一つで介助か監視が必要である。

8. 更衣

10 点
どんな服でも,着て,脱いで,締めることができ,靴紐を結ぶことができる(改造が必要である場合を除く)。
コルセットや装具が処方されていれば,それらをつけたり外したり締めたりすることが含まれる。
必要であれば,サスペンダー,ローファー,前開きのドレスなどの特別な衣類を使ってもよい。

5 点
いずれかの衣類で,着たり,脱いだり,締めたりするのに介助が必要。
少なくとも半分は自分で行う。
妥当な時間内でできなければならない。

女性のブラジャーやガードルについては,それらが処方されたものでない限り,採点には含まれない。

9. 排便コントロール

10 点
排便のコントロールができ,失禁はない。
必要であれば座薬を使ったり,浣腸を行うことができる(排便訓練を受けた脊髄損傷患者の場合)。

5 点
座薬を使ったり,浣腸を行うのに介助が必要であったり,時々失禁がある。

10. 排尿コントロール

10 点
昼夜ともに排尿をコントロールできる。
排尿のための外部装置やレッグバッグを使用している脊髄損傷患者は,それらを独立して装着でき,バッグを清潔にしたり空にすることができ,昼夜ともに漏れないよう管理できなければならない。

5 点
時々失敗があったり,差し込み便器を用意してもらうまで待てなかったり,トイレに着くまでに漏れてしまったり,排尿のための外部装置に関して助けを必要とする。

以上の基準を満たさなければ 0 点とする。

補足説明と疑問点

細かいところも多く,長くなります。

100 点満点が意味するところ

BI が 100 点であることは,一人で生活できることを意味するのではありません。
例えば,食事が 10 点となる基準に「誰かが手の届く範囲に食事をおけば」という条件があります。
食事を用意してくれる人がいなければ,一人で生活することはできないということがあり得ます。
ADL 評価の点数を理解することにおいて,特に学生にとっては重要なところです。

「some」の解釈について

「some help,いくらかの介助」という表現がよく使われています。
この some がどの程度なのかは明記されていません。
some という単語は few, little と many, much の間を表すものであり,「多くも少なくもない」ということを表しています。
そうなると,たった一つだけ介助が必要な時はどう採点するのかが分からなくなりそうですが,「たとえわずかでも介助が必要であれば満点(自立)にはならない」と書いてありますので,点数は下がることになります。

0 点の基準

全介助であれば 0 点としている文献2-4)がありますが,誤解を招く表現であるかもしれません。
例えば,食事の 5 点の基準は「いくらかの介助が必要」です。
「いくらか」を超える介助が必要でも,全てに介助が必要ではないとしたら,その状態は 0 点ですが,全介助というには違和感があります。
そもそも,原著では全介助という用語は使われていません。

時間と安全性の採点

実行時間や安全性についての基準がある項目とない項目があります。
原著には明記されていませんが,全ての項目において,満点の基準には妥当な時間で安全に行えることが含まれていると思います。

「2. 車椅子とベッドの間での移乗」における,車椅子を利用していない場合の扱い

車椅子を利用していないと,この項目は採点できないのですが,それをどう扱えばいいのかについて,原著には何も書かれていません。
文献2-4)によっては 15 点の基準のところに「歩行自立も含む」と書いてあるものがありますが,そのような表現は原著にはありません。

起き上がりや起立の採点がこの項目には含まれていますので,それらを採点すればいいと思います。

3. 整容

整容に含まれる動作に「come hair」があります。
髪をとくということですが,この訳語が整髪となっています2-9)
私は,整髪ではなく,髪をとくとする方がいいと思います。
整髪を英語にすると styling や haircut になり,come hair よりも範囲が広がります。
また,「女性の場合,髪を編んだり,髪型を整えたりはできなくてもいい」とあります。
どこまでが採点に含まれるのかが曖昧なのですが,あくまでも髪をとくことが中心で,複雑なことは要求していないのだと思います。

4. トイレ動作

原著では Getting on and off toilet という項目です。
Getting on and off toilet がどの動作をさしているのかがよく分かりません。
Getting on and off toilet で動画検索をすると,便座に座ったり,立ち上がったりする動作がヒットしますので,トイレでの立ち座りということでよさそうです。

これをトイレの出入りと訳している文献5-9)もあります。
出入りでもよさそうですが,出入りだとトイレという部屋への出入り(entry / exit)が思い浮かび,トイレ動作ではなく歩行動作に近くなります。
「6. 平地歩行」の下位項目である「6a. 車椅子駆動」では,トイレなどにうまくつけることができるという基準がでてきます。
トイレという部屋への出入りは「4. トイレ動作」には含まれないと私は考えています。

「トイレではなく差し込み便器を使う必要があるなら,自分でそれを椅子に置き」とあります。
差し込み便器(bed pan)は寝て使うものだと思うのですが,それを椅子に置くとはどういうことなのかは,考えても分かりませんでした。

5. 入浴

「浴槽,シャワー,あるいは清拭のどれでもいい」となっています。
清拭(sponge bath)とは,浴室ではなく,ベッド上などで,濡れたタオルやスポンジで体を拭くことです。
FIM だと清拭は少し違う意味になります。

6. 平地歩行

歩行距離 50 ヤードが基準になっています。
50 ヤードは 45.72 メートルですが,これを 45 メートルとしている文献2-4)があります。
45.72 も 45 も同じようなものですが,試験を作る立場の方は注意が必要です。

杖 cane とクラッチ cruch の違いですが,握りが1点だけの杖は cane,前腕なども加わり2点となると cruch です10)

歩行器(walkerette,図1)を使っても減点になりませんが,車輪付きの歩行器(rolling walker,図2)だと減点になります。
車輪付き歩行器を使える方が自立度は高いということもありそうですので,この基準には違和感があります。

歩行器 walkerette
図 1:歩行器 walkerette
車輪付きの歩行器 rolling walker
図 2:車輪付きの歩行器 rolling walker

さて,walkerette と walker という名称の使い分けは,リハビリテーション技術全書11)に載っていますが,一般では,厳密な使い分けはなされていないようです。
もしかしたら,Barthel1)のいう,walkerette や rolling walker は,別のものであるかもしれません。

装具を使う場合は「ロックおよびロック解除ができ,立位をとり,座ることができ,必要な機械的補助器具を装着し,座った時には片付けることができなければならない」のですが,私には意味が分かりません。
もしかしたら,長下肢装具の膝継手のことを指しているのかもしれません。
原文は「He must be able to lock and unlock braces if used, assume the standing position and sit down, get the necessary mechanical aides into position for use, and dispose of them when he sits」となっています。

7. 階段昇降

一続きの階段とは,a flight of stairs を訳したもので,ある階と次の階までの一続きとか,ある階と踊り場までの一続きの階段ということです。
実際の生活での長い階段の昇降が求められています。
数段の短い階段をどのように扱うかは不明です。

8. 更衣

10 点の基準の原文は「Patient is able to put on and remove and fasten all clothing, and tie shoe laces(unless it is necessary to use adaptations for this)」です。
最後のカッコ内の文を「細かい着方までは必要とせず,実用性があればよい」などと訳している文献5,6,9)があります。
私は「改造が必要である場合を除く」と訳しましたが,自信がありません。

締めるという言葉は fasten を訳したもので,ボタンやファスナーなどの留め具をかけたり締めたりするということです。
外したり開けたりすることについては書かれていないのですが,当然含まれると思います。
最初の表の原文には fastening fasteners という表現がありますが,ここでの fasteners は,日本語のファスナー(ジッパー,チャック)だけでなく,ボタンなどの留め具全般を指しているようです。

「必要であれば,サスペンダー,ローファー,前開きのドレスなどの特別な衣類を使ってもよい(Such special clothing as suspenders, loafer shoes, dresses that open down the front may be used when necessary)」という基準の意味が私にはよく分かりません。
おそらく,必要であればというのは,障害があってそれでないと着ることができないということではなく,TPO に応じて,そのような服を着る必要がある場合ということだと思います。
しかし,サスペンダー,ローファー,前開きのドレスが特別な服だというのも不思議ですので,どう解釈していいのかが分かりません(1965 年のアメリカ文化を知る必要があるのかもしれません)。

10. 排尿コントロール

レッグバッグのみがでてきますが,それ以外の集尿袋も含まれると思います。

採点ができない場合

原著にある採点基準のみでは採点ができないことがあります。
古い評価法ですし,継続的に改定が行われているわけではありませんので,ある程度は仕方がないと思います。

例をいくつか挙げます。

移乗の 5 点は「介助なしで起き上がることができるが,立ち上がるのに持ち上げてもらったり,乗り移るのにかなりの介助が必要」です。
以下の状態をどうでしょう。
立ち上がりや乗り移りでかなりの介助が必要で,起き上がりには監視が必要であれば 0 点でしょうか?
起き上がりにかなりの介助が必要だが立ち上がりや乗り移りは監視のみだとしたら何点でしょう?

歩行では,介助や監視が必要でも 50 ヤード歩ければ 10 点です。
では,45 ヤードしか歩けないけど,介助や監視がいらないのであれば,何点でしょう。

「できる ADL」を採点するのか?「している ADL」を採点するのか?

BI は「できる ADL」で採点するとしている文献4,9)がいくつかあるのですが,逆に「している ADL」を採点するとしているもの3)もあります。

この点について原著には明記されていません。
しかし,以下のような記述があります。

「各項目に割り当てられた点数は,実行できない場合に必要な実際の介助の量と時間に基づく」
「環境条件は点数に影響することがある。特別な住環境が必要であるのに,それがなければ点数は低くなる。特別な環境が必要な場合は,その説明を BI の点数に併記する」
「実際に介助は行なっていないにも関わらず介助者が必要とされている場合,点数の改善が見られなくなることがある」

これらの記述からは,「している ADL」を採点しているように思えます。

おわりに

Barthel のカタカナ表記ですが,バーサル,バーセル,バーゼルなどがあり,一定ではありません。

BI は広く普及していますが,文献に載っているものは,それぞれ少しづつ異なりますし,省略されたものもあります。
採点をするうえであまり困らないことも多いのですが,正確さを求める場合には原著を読む方がいいでしょう。

この記事は,できるだけ原著の内容に近くなるよう心がけました。
しかし,翻訳は私独自のもので,ブログの記事だと翻訳の正確さが保証されません。
成書にあるものが必要なら,私が確認できた範囲では,文献 7)のものが一番原著に近いと思います。

こちらもおすすめ

FIMの採点方法(基礎編)〜 まず初めに覚えるところ

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参考文献

原著は Internet Archive で「Maryland State Medical Journal」を検索するとでてきます。
画像データであり,文字が判別できないところがあります。
また,再版されたものがあります。
PDFファイルで読みやすいのですが,誤りがあります。

1)Mahoney FI, Barthel DW. Functional Evaluation: The Barthel Index. Md State Med J. 1965; 14: 61-65.
2)石田暉: 脳卒中後遺症の評価スケール. 脳と循環. 1999; 4: 151-159.
3)田中亮: ADL・QOL, 15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト 理学療法評価学 I. 石川朗(編), 中山書店, 2013, pp145-154.
4)上野真, 下堂薗恵: Barthel Index. BRAIN NURSING. 2019; 35: 24-27.
5)千住秀明, 他(編): 理学療法学テキストII 理学療法評価法. 神陵文庫, 1998, pp28.
6)鈴木俊明(監修): 臨床理学療法評価法-臨床で即役に立つ理学療法評価法のすべて. エンタプライズ, 2005, pp293-296.
7)田口孝行: 治療場面におけるADL評価の活用, 標準理学療法学 専門分野 日常生活活動学・生活環境学. 鶴見隆正(編), 医学書院, 2003, pp54-59.
8)小林武: 日常生活活動, 標準理学療法学 専門分野 理学療法評価学第2版. 内山靖(編), 医学書院, 2006, pp224-233.
9)前野里恵: Barthel Index(BI), 臨床評価指標入門 適用と解釈のポイント. 内山靖, 小林武, 他(編), 協同医書出版社, 東京, 2013, pp263-269.
10)上田敏, 大川弥生他(編): リハビリテーション医学大辞典. 医歯薬出版, 2002, pp405.
11)蜂須賀研二(編): 服部リハビリテーション技術全書 第3版. 医学書院, 2014, pp624-625.

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2020 年 12 月 8 日
2020 年 7 月 26 日

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