はじめに
Foot-strike Patterns(FSP) とは,足部接地の型のことであり,足部がどのように地面に接地するかを分類するものです。
通常はランニングにおける接地を指します。
つま先着地や踵着地という用語が有名ですね。
日本語訳はまだ定まっていないようですが,「足部接地パターン」としている文献2)があります。
英語をカタカナ表記にして「フットストライクパターン」としてもいいかもしれません。
Foot-strike Patterns の分類(定義)の仕方は統一されていません。
この記事では,Foot-strike Patterns の代表的な分類を解説します。
視覚的分類 nominal (visual) classification1)
接地する瞬間を横から(矢状面で)観察し,どこから接地するかで分類します。
Rearfoot strike(RFS,後足部接地)
接地は着地と言い換えてもかまいません。
Heel strike(踵着地)という言い方もよく使われます。
後足部(踵)が先に接地し,後から前足部が接地する走り方です(図 1)。
![Rearfoot strike](https://pt-dodo.com/wp-content/uploads/2020/09/RFS-278x300.png)
Midfoot strike(MFS,中足部接地)
ミッドフット着地とかミッドフット走法ということも多いようです。
前足部と後足部が同時に接地します(図 2)。
![Midfoot strike](https://pt-dodo.com/wp-content/uploads/2020/09/MFS-280x300.png)
Forefoot strike(FFS,前足部接地)
つま先着地ともいいます。
前足部が先に接地し,後から後足部が接地します(図 3)。
![Forefoot strike](https://pt-dodo.com/wp-content/uploads/2020/09/FFS-259x300.png)
Ball of the foot(中足骨頭,足指の付け根の膨らみ)から接地すると表現することもあります。
足の構造上,前足部を先に接地させようとすると,ball of the foot が先に接地することがほとんどです。
前足部も ball of the foot もほぼ同じ意味になります。
評価方法
視覚的分類ですので,ランニング動作を観察すればいいのですが,ランニングは高速ですので,肉眼では限界があります。
ハイスピードカメラ(120 fps)を使うことが推奨されています。
ちなみに今のスマホはそれぐらいの動画を撮ることができます。
Strike Index(SI)3)
Foot Strike Index(FSI)ということもあります。
日本語訳は定まったものがなさそうです。
Strike Index とは,接地した時の圧中心の位置を表したもので,足の後端からの距離を足の全長に対する割合(%)で表したものです。
Strike Index の値が小さいければ,接地した時の圧中心は足の後側(踵側)にあり,大きければ前側(爪先側)にあるということです。
分類は以下のようになります。
- RFS: 0 – 33%
- MFS: 34 – 67%
- FFS: 68 – 100%
この SI をゴールドスタンダードとすることが多いようです。
測定には,床反力計と三次元動作解析装置といったおおがかりな機器が必要です。
一般のランナーが Strike Index を測定する機会はほとんどありません。
しかし,靴のインソールによる測定などが開発されつつあるようで,今後に期待です。
SI についてもう少し詳しく解説した記事はこちらです。
Footstrike Angle(FSA)4)
接地時の足の角度で分類するものです。
他の分類と同じように,RFS,MFS,FFS に分類します。
角度を測るための軸は,踵骨と第 5 中足骨頭(小指の付け根)を結んだ線で,基準線は水平線です。
下腿に対する足の角度ではありません。
論文4)では踵骨や第 5 中足骨のどこであるのかは,正確に示していませんが,足部の角度が分かればどこでもいいはずです。
そして,「Footstrike Angle = 接地した瞬間の角度 – 立位時の角度」です。
Footstrike Angle がプラスであれば前足部が上がっていて,マイナスであれば前足部が下がっていることを表します。
分類は以下のようになります。
- FFS: FSA < -1.6°
- MFS: -1.6° < FSA < 8.0°
- RFS: FSA > 8.0°
この Footstrike Angle は,前述の Strike Index との相関があり(R = 0.92),角度さえ測ることができれば,Foot-strike Patterns を Strike Index に近い正確さで分類できます。
その他の分類
足関節の角度
先ほどの Footstrike Angle は水平線に対する足の角度をみていましたが,下腿に対する足の角度で分類することも可能です。
FFS や MFS では,足関節底屈位で接地し,RFS では足関節背屈位で接地するとしています。
しかし,この方法でうまく分類できるかどうかは十分に検証されていません。
モーメント
床反力計などから得た関節モーメントで分類する方法もあります。
接地直後の足関節内部モーメント(外力に対抗して関節で生じる力)が主に背屈であれば RFS,底屈であれば FFS と分類します(3 つではなく,2 つに分類することについては後述)。
床反力の垂直成分
RFS では,接地直後に床反力垂直成分の小さなピーク(図 4 の丸で囲ったところ)が生じるのが特徴的です5)。
これで分類するという考え方があります。
![床反力垂直成分の小さなピーク](https://pt-dodo.com/wp-content/uploads/2020/09/vGRF-296x300.png)
問題点
単純化しすぎている
様々な分類を紹介しましたが,どれも単純すぎて,実際のランニングフォームの違いと合わないことがあります。
複雑な足の動きの一側面のみをみていることになりますので,仕方がありません。
複数の分類を組み合わせる試みもあるようですが,定着はしていません。
3つではなく2つに分ける
MFS において,前足部と後足部が同時に接地するという時の,「同時」を定義しにくいという問題があります。
前足部と後足部のどちらかが,0.1 秒でも早く接地すれば,それは MFS ではないのでしょうか?
同時に接地することは滅多に起こらないことですので,MFS はないと考えてもよさそうです。
また,MFS と FFS では足関節の動きや筋の働きが似ています。
前述のモーメントによる分類と同じことなのですが,ここでは別の視点で説明したいと思います。
RFS で衝撃を吸収するのはヒールロッカーの動き(距腿関節底屈)が中心になります。
それに対して,MFS や FFS では,どちらの場合も,足部の関節(リスフラン関節やショパール関節など)の動きや距腿関節背屈の動きが衝撃を吸収します。
これらのことから,MFS と FFS は同じだと考えることができます。
MFS と FFS を合わせて non-rearfoot strike と呼んだり,MFS と FFS を合わせて FFS と呼んだりします。
視覚的分類と Strike Index が一致しない
視覚的分類での MFS では,前足部と後足部が同時に接地するのですが,そのときの圧中心は重心の位置などによって変えることができます。
例えば,前足部と後足部が同時に接地していても,圧中心は後足部にあるということが起こります。
つまり,視覚的に確認した接地部位と接地したときの圧中心の位置は一致しないということになります。
FFSの定義のバリエーション
Ball of the foot から接地し,後足部は接地しない場合を FFS と呼び,Ball of the foot から接地し,その後に後足部が接地すれば,それを MFS と呼ぶ場合があります6)。
RFSの定義の問題
同じ RFS でも,後足部が接地してから前足部が接地するまでの時間に差があります。
前足部が接地するまでの時間が短ければ,MFS に近くなると予想できます。
おわりに
Foot-strike Patterns の概念や分類は十分に確立していません。
それが,FFS と RFS のどちらがいいかという議論に決着がつかない理由の一つになっているような気がします。
今後の研究の発展に期待しましょう。
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参考文献
1)Hoenig T, Rolvien T, et al.: Footstrike patterns in runners: concepts, classifications, techniques, and implications for running-related injuries. Dtsch Z Sportmed. 2020; 71: 55-61. doi:10.5960/dzsm.2020.424
2)肥田直人, 石井慎一郎, 他: 足部接地パターンがランニングにおける推進特性に及ぼす影響. 理学療法科学. 2016; 31: 815-818.
3)Cavanagh PR, Lafortune MA: Ground reaction forces in distance running. J Biomech. 1980; 13: 397-406.
4)Altman AR, Davis IS: A kinematic method for footstrike pattern detection in barefoot and shod runners. Gait Posture. 2012; 35: 298-300. doi: 10.1016/j.gaitpost.2011.09.104
5)Lieberman DE, Venkadesan M, et al.: Foot strike patterns and collision forces in habitually barefoot versus shod runners. Nature. 2010; 463: 531-535. doi:10.1038/nature08723
6)Hamill J, Gruber AH: Is changing footstrike pattern beneficial to runners?. J Sport Health Sci. 2017; 6: 146-153. doi:10.1016/j.jshs.2017.02.004
2020 年 9 月 17 日
2020 年 9 月 14 日
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