はじめに
上腕動脈の触知について,解剖学的に少しだけ掘り下げながら解説したいと思います。
上腕動脈とは
鎖骨下動脈,腋窩動脈,上腕動脈は一続きの動脈で,走行部位によって名前が変わります。
上腕動脈は大胸筋の下縁1)から始まり,肘窩で橈骨動脈と尺骨動脈に分かれるところで終わります。
大円筋の下縁を超えたところからとする文献2)もあります。
上腕動脈の場所・走行
上腕動脈は,内側二頭筋溝を正中神経とともに下行します。
内側二頭筋溝とは,上腕の内側で,上腕二頭筋と内側筋間中隔(上腕三頭筋)で挟まれた溝です。
よって,上腕二頭筋や烏口腕筋の後方を走ることになります。
上腕筋に対しては前方を走ります。
そして,正中神経の後方を走るのが普通です。
次第に上腕の前側に出てきて,肘窩に至ります。
上腕二頭筋腱膜の下をくぐり抜け,橈骨動脈と尺骨動脈に分かれます。
上腕動脈の触知(探し方)
全長にわたって触れることができますが,通常は肘窩で触れます。
血圧測定で聴診器をあてるところです。
肘窩で上腕二頭筋の停止腱の内側で触れることができます。
動脈を上腕骨に押し付ける方向で触れます。
かなり強く触れることができ,目視で拍動を確認できることもあります。
初心者にありがちな失敗は,上腕二頭筋腱膜や上腕筋の内側で探してしまうことです。
慣れないうちは肘窩の外側からたどるようにすれば,上腕二頭筋の停止腱が先に触れますので間違えにくいと思います。
肘関節はできるだけ伸展するようにします。
屈曲するとより多くの軟部組織に覆われることになり,拍動は触れにくくなります。
上腕二頭筋が強く収縮してしまうと拍動を触れることはできませんので,できるだけ力を抜いてもらいます。
肘窩で触れることができれば,そのまま中枢側に指をずらしていくことで,上腕動脈の全長で拍動を触れることができます。
肘窩からたどらなくても触れることはできます。
上腕二頭筋と上腕三頭筋の間に指を入れて前後に動かすと,比較的硬い紐のようなものを触れます。
それはたいていは正中神経で,正中神経のそばで上腕動脈を触れます。
圧迫していく方向は,上腕骨か内側筋間中隔の方向です。
やや後ろ寄りの方向ということです。
上腕二頭筋に向かって圧迫していくと,上腕二頭筋が柔らかくてどんどん逃げていってしまうため,動脈を圧迫できません。
おわりに
上腕動脈は血圧測定のために触れる機会が多いので,学生にうちから十分に練習しておきたいところです。
他の動脈の触知に関する記事もあります。
参考文献
1)金子丑之助: 日本人体解剖学下巻(改訂19版). 南山堂, 2008, pp78.
2)秋田恵一(訳): グレイ解剖学(原著第4版). エルゼビア・ジャパン, 2019, pp617-618.
3)越智淳三(訳): 解剖学アトラス(第3版). 文光堂, 2001, pp245.
4)河上敬介, 磯貝香(編): 骨格筋の形と触察法(改訂第2版). 大峰閣, 2013, pp178-194.
2021 年 7 月 21 日
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