内側踵骨枝の分岐と走行

はじめに

内側踵骨枝 medial calcaneal branches(脛骨神経の枝)が絞扼性神経障害を起こすことがあるのですが,教科書ではあまり詳しく書かれていません。
そこで,まずは内側踵骨枝の分岐と走行を確認してみることにしました。

「足根管部の解剖学的研究1)」より

足根管部の解剖についての論文です。
実習用献体 31 体 62 肢,骨軟部悪性腫瘍や外傷により切断された新鮮標本 5 肢で解剖を行っています。

分岐

内側踵骨枝は以下に示すような多様な分岐形態があります。

1. 外側足底神経より分岐するもの(図 1)

外側足底神経より分岐するもの
図 1: 文献 1 より改変引用,M: 内側足底神経,L: 外側足底神経,C: 内側踵骨枝

2. 脛骨神経本幹より分岐するもの(図 2)

脛骨神経本幹より分岐するもの
図 2: 文献 1 より改変引用,M: 内側足底神経,L: 外側足底神経,C: 内側踵骨枝

3. 脛骨神経本幹と外側足底神経より分岐するもの(図 3)

脛骨神経本幹と外側足底神経より分岐するもの
図 3: 文献 1 より改変引用,M: 内側足底神経,L: 外側足底神経,C: 内側踵骨枝

4. 内側および外側足底神経の分岐部より分岐するもの(図 4)

内側および外側足底神経の分岐部より分岐するもの
図 4: 文献 1 より改変引用,M: 内側足底神経,L: 外側足底神経,C: 内側踵骨枝

5. 多数の分枝を有するもの(図 5)

多数の分枝を有するもの
図 5: 文献 1 より改変引用,M: 内側足底神経,L: 外側足底神経,C: 内側踵骨枝

6. 高位分岐を呈するもの(図 6)

高位分岐を呈するもの
図 6: 文献 1 より改変引用,M: 内側足底神経,L: 外側足底神経,C: 内側踵骨枝

それぞれは混在し,太さも考慮に入れると同一形態を呈するものはなかったとしています。

内側足底神経から分岐するものはありませんでした。

分岐がほぼ左右対称であったのは 5 体(16%)でした。

足根管より近位で分岐する内側踵骨枝は 62 足中 26 足(42%)でした。

走行

屈筋支帯を途中で貫通するか,くぐり抜けて踵部内側の皮膚に分散していきます。

解剖学の教科書など

以下の 3 つの文献において,どのように書かれているのかをまとめました。

解剖学アトラス2)

内側踵骨枝がどこで分岐するか,また,足根管の中を通るのかどうかについては書かれていません。
図を見ると,下腿のちょうど一番細くなるあたりではすでに分岐しているかのようになっていますが,説明はありません。

日本人体解剖学3)

内側踵骨枝は,内・外側足底神経の分岐部から起こるとあります。
しかし,肝心の内・外側足底神経の分岐部がどこなのかが書かれていません。
足根管との関係も書かれていません。
図では,内側踵骨枝は足根管を構成する屈筋支帯の表層に描かれています。

下腿と足の痛み4)

「脛骨神経は足根管内で踵骨枝を分岐し,さらに内側および外側足底神経に分かれる」としています。

文献によって書いてあることが異なるのですが,内側踵骨枝には様々なバリエーションがあると理解しておくのがよさそうです。

どこで絞扼をうけるのか?

内・外側足底神経と内側踵骨枝が同時に絞扼をうけたり,内側踵骨枝のみが絞扼をうけたりするのですが,その違いを解剖学的に説明している論文はまだみつかっていません。

内側踵骨枝のみの絞扼は,内側踵骨枝が屈筋支帯を途中で貫通する場合に起こりそうな気がします。

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おわりに

内側踵骨枝のようないわゆるマイナーな神経について勉強するときは,教科書のみでなく,解剖の論文を読むことが大切だと思います。

内側踵骨枝の絞扼性神経障害に対して理学療法を行う場合,個々の患者の神経の走行を正確に把握することは必ずしも必要なことではなく,屈筋支帯の緊張を変えて痛みが変化するのかを評価すればいいのではないでしょうか?

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参考文献

1)長岡正宏: 足根管部の解剖学的研究. 日整会誌. 1990; 64: 208-216.
2)越智淳三(訳):解剖学アトラス(第3版). 文光堂, 2001, pp206.
3)金子丑之助:日本人体解剖学上巻(改訂19版).南山堂, 2002, pp594-617.
4)寺山和雄, 片岡治(監): 整形外科 痛みへのアプローチ 下腿と足の痛み. 南江堂, 1996, pp125-127.
5)中宿伸哉, 赤羽根良和, 他: 脛骨神経内側踵骨枝由来の踵部痛にMorton氏病を合併した1症例. 愛知県理学療法学会誌. 2008; 20: 10-11.

2020 年 1 月 23 日

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