はじめに
中足趾節関節 metatarsophalangeal joints(MTP 関節)の解剖(構造)と運動について基本的なところをまとめます。
目次
- 中足趾節関節を構成する骨と関節面
- 種子骨
- 関節の分類
- 中足趾節関節の靱帯
- その他の関節周囲の結合組織
- 中足趾節関節の関節包
- 中足趾節関節の滑液包
- 中足趾節関節の運動
- しまりの肢位(CPP)と最大ゆるみの肢位(LPP)
- 関節内圧
- 中足趾節関節に作用する筋
- 主な血液供給
- 中足趾節関節の感覚神経支配
中足趾節関節を構成する骨と関節面
- 中足骨頭(凸面)
- 基節骨底(凹面)
中足骨頭の関節面が半球状であるのに対して,基節骨底の関節面は曲率が小さく皿状です4)。
種子骨
第 1 中足骨頭の足底側に内側種子骨と外側種子骨の 2 つの種子骨 sesamoid bone があります。
種子骨の背側面と第 1 中足骨頭の足底面とで関節がつくられます1,5,25)。
この関節の名称は,今回調査した文献にはありませんでした。
種子骨の場所に関連した説明として,短母趾屈筋腱内にある1,23),短母趾屈筋が種子骨に付着する6,7,9),蹠側板の中にある25)などがありますが,おそらくは表現の仕方が異なるだけで同じことを表しているのだと思います。
母趾外転筋と母趾内転筋も種子骨に付着します。
種子骨の主な役割は短母趾屈筋による屈曲筋力を効率良く基節骨に伝えることであり,同時に母趾の接地において衝撃を和らげるクッションの役割もあります23)。
関節の分類
- 可動性による分類:滑膜性関節(可動結合)
- 関節面の形状と動きによる分類:球関節4,6,11,18)
- 運動軸による分類:2 軸性
- 骨数による分類:単関節
球関節であれば 3 軸性になるはずですが,中足趾節関節は 2 軸性の関節です。
中足趾節関節の構造は中手指節関節と似ており,中手指節関節と同様の顆状関節としたほうがいいのかもしれません。
中足趾節関節の靱帯
側副靭帯 collateral ligaments
各関節の内側と外側にあり,内側側副靭帯,外側側副靭帯と呼ぶ場合11)もあります。
太いコード状の主線維と広い扇状の副線維に分かれます1)。
主線維は main collateral ligaments 26) あるいは proper collateral ligaments 22)とも呼ばれます。
そして,第 1 中足趾節関節の副線維は accessory sesamoid ligaments26) あるいは sesamoid ligaments25) とも呼ばれます。
- 近位付着部:中足骨頭の側面の結節20)
- 遠位付着部:基節骨底(主線維),蹠側板と種子骨(副線維)
- 靱帯が緊張する動き:内転と外転,底屈13)
近位背側から遠位底側の方向に斜めに走ります。
関節包に混ざり合い,関節包を補強します1)。
中足骨頭への付着部を内側結節と外側結節としている文献2)がありますが,内側結節,外側結節という用語は他の文献にはありません。
また,中足骨頭に結節があるという記述もありません。
底側靭帯 plantar ligaments2,5,6,11,19,20)
- 近位付着部:中足骨頭の底側面2)
- 遠位付着部:基節骨底の底側面2)
- 靱帯が緊張する動き:記載なし
底側靭帯の足底面には長趾屈筋腱が通る溝があります5)。
この底側靱帯と後述する蹠側板の関係については,どの文献も記述が不十分であり,不確かです。
底側靭帯が載っている文献には蹠側板が載っていません。
底側靱帯と蹠側板のどちらも長趾屈筋腱が通る溝があり,深横中足靭帯が付着するとあります。
これらのことから,おそらくは底側靱帯と蹠側板は同じものです。
底側靭帯の深部は滑膜で裏打ちされている20)とありますので,底側靱帯は関節包が肥厚した靭帯であるようです。
そうなると,関節包と蹠側板が分離できるものであるのかどうかが論点になりそうです。
深横中足靭帯 deep transvers metatarsal ligament
横中足靭帯13,18) transvers metatarsal ligament20) とも呼ばれます。
隣接する中足骨頭のあいだにある靭帯で,4 つあります。
- 付着部:蹠側板の内側縁1,22)
- 付着部:蹠側板の外側縁1,22)
- 靱帯が緊張する動き:記載なし
底側靭帯2)あるいは中足骨頭の側面6)に付着するとも書かれています。
Medial metatarsosesamoid ligament26)
種子骨につく靱帯ですので,第 1 中足趾節関節の靱帯ということにないます。
- 近位付着部:中足骨頸部 metatarsal neck
- 遠位付着部:内側種子骨の近位縁
- 靱帯が緊張する動き:記載なし
Lateral metatarsosesamoid ligament26)
- 近位付着部:中足骨頸部 metatarsal neck
- 遠位付着部:外側種子骨の近位縁
- 靱帯が緊張する動き:記載なし
Medial sesamoid phalangeal ligament26)
Phalangeal sesamoid ligament 25)とも呼ばれます。
- 近位付着部:内側種子骨の遠位面
- 遠位付着部:基節骨底
- 靱帯が緊張する動き:記載なし
Lateral sesamoid phalangeal ligament26)
- 近位付着部:外側種子骨の遠位面
- 遠位付着部:基節骨底
- 靱帯が緊張する動き:記載なし
Intersesamoid ligament26)
- 付着部:内側種子骨
- 付着部:外側種子骨
- 靱帯が緊張する動き:記載なし
付着部の詳しい情報はありませんでした。
長母趾屈筋腱が通る溝の一部を形成します。
その他の関節周囲の結合組織
蹠側板 plantar plate
中足趾節関節の掌側にある線維軟骨22)の板です(図 1)。
底側靭帯との関係は不確かです(前述)。
蹠側板の読み方は文献 1)の索引から判断すると「ショソクバン」であり,「整形外科手術 名人の know-how 蹠側板損傷の修復」という文献の CiNii における書誌事項 では「セキソクバン」となっていました。
どちらが正しいのかは分かりません。
- 近位付着部:中足骨体遠位部の底側面22)
- 遠位付着部:基節骨底の底側面22,26)
近位付着部を中足骨頸部 metatarsal neck としている文献26)があります。
第 2 〜第 5 中足趾節関節では,遠位付着部は近位付着部よりも厚みがあり,より強固に付着しています22)。
第 1 中足趾節関節には種子骨があるため,蹠側板の構造はより複雑であり,その説明には文献による違いがあります。
文献26)には,蹠側板は以下 4 つで構成されると書かれています。
- central portion of the plantar plate
- intersesamoid ligaments
- sesamoid phalangeal ligaments
- metatarsosesamoid ligaments
前述の靭帯は蹠側板に含まれることになります。
蹠側板の底側には屈筋群の腱が通る溝があります1)が,その構造についての詳しい記述はありません。
蹠側板に付着するものとして,側副靭帯の副線維,深横中足靱帯,足底腱膜1),虫様筋,底側骨間筋,小趾外転筋,短小趾屈筋22)があります。
趾背腱膜(趾背腱膜腱帽 extensor hood)
手の指背腱膜と比べて情報が少なく,詳しいことは分かりませんでした。
趾背腱膜と趾背腱膜腱帽は同じものとしていますが,それも不確かです。
趾背腱膜は中足趾節関節の背側を覆う組織です。
長趾伸筋,短趾伸筋,長母趾伸筋のそれぞれの腱が基節骨の上で広がって三角形の拡張部を形成します。
三角形の頂点が末節骨に,中央部が中節骨(第 2 〜 第 5 趾)または基節骨(第 1 趾)に付着し,三角形の底辺のそれぞれの角が中足趾節関節の両側を包み込み,主に深横中足靭帯に付着します5)。
中足趾節関節の関節包
今回調査した文献には中足趾節関節の関節包に関する詳しい記述はありませんでした。
中足趾節関節の滑液包 6)
- 中足指節間包:中足趾節関節の間の足底側
- (足の)虫様筋(の滑液)包:各虫様筋の腱と横中足骨頭靭帯の間
この 2 つが中足趾節関節の滑液包といえそうですが,足部の滑液包や滑液鞘にはどの関節に属しているのかを決められないものが多かったため,距腿関節についての記事でその他の足部の滑液包と滑液鞘をまとめています。
虫様筋包の説明にある横中足骨頭靭帯という名称は,文献 6)の滑液包のところでしか使われておらず,どの靭帯を指しているかは不明です。
種子骨の足底側にも正常足の 30% において滑液包があります24) 。
中足趾節関節の運動
中足趾節関節は屈伸と内外転が可能です。
屈伸が主です。
多くの人は内外転を能動的に行うことには慣れていません。
屈伸と内外転以外に回旋が可能としている文献5)があります。
屈曲(底屈)と伸展(背屈)
矢状面における内外側軸での動きです。
運動軸は中足骨頭の中心を通ります1)。
- 屈曲の可動域(他動):35° 3)
- 屈曲の制限因子:関節包背部,側副靭帯,短趾伸筋の緊張13)
- 屈曲のエンドフィール:結合組織性13)
屈曲の可動域は文献1-3,9,10,16)により 30 〜 50° の範囲で幅があります。
- 伸展の可動域(他動):60°(第 1 中足趾節関節),40°(第 2 〜 5 中足趾節関節) 3)
- 伸展の制限因子:関節包底面,掌側板(掌側線維軟骨板),短母指屈筋,短趾屈筋,短小趾屈筋の緊張13)
- 伸展のエンドフィール:結合組織性13)
第 1 中足趾節関節伸展の可動域は文献1-3,9,10,16)により 60 〜 90° の範囲で幅があります。
第 2 〜 5 中足趾節関節伸展の可動域は文献1-3,9,10,16)により 40 〜 90° の範囲で幅があります。
掌側板(掌側線維軟骨板)は蹠側板を指していると思いますが,不確かです。
外転と内転
水平面における垂直軸での動きです。
運動軸は中足骨頭の中心を通ります1)。
第 2 趾に近づく動きが内転,離れる動きが外転です。
第 2 中足趾節関節の外転は第 2 趾が母趾から離れる動きで,内転は第 2 趾が母趾に近づく動きです。
- 外転の可動域(他動):記載なし
- 外転の制限因子:関節包,側副靭帯,足趾間の趾間腔の筋膜,母趾内転筋,底側骨間筋の緊張13)
- 外転のエンドフィール:結合組織性13)
- 内転の可動域(他動):記載なし
- 内転の制限因子:記載なし
- 内転のエンドフィール:記載なし
しまりの肢位(CPP)と最大ゆるみの肢位(LPP)
第 1 中足趾節関節
- CPP:最大伸展(背屈)位2,8)
- LPP:10° 伸展位2)
第 2 〜 5 中足趾節関節
- CPP:最大屈曲(底屈)位2,8)
- LPP:10° 伸展位2,8)
関節内圧
今回調査した文献には中足趾節関節の関節内圧に関する記述はありませんでした。
中足趾節関節に作用する筋
解剖学的肢位で筋が求心性収縮をしたときの作用が主です。
主動作筋と補助動筋に分けていますが,その区別の基準は決まっていないようです。
ここでは主に MMT のテキスト 16) を参考にして分けています。
はっきりしないものは補助動筋にしました。
第 1 中足趾節関節の屈曲(底屈)に作用する筋
- 主動作筋
- 短母趾屈筋
- 補助動筋
- 長母趾屈筋
- 母趾外転筋
- 母趾内転筋
第 2 〜 5 中足趾節関節の屈曲(底屈)に作用する筋
- 主動作筋
- 虫様筋
- 補助動筋
- 背側骨間筋(第 2 〜 4 中足趾節関節)
- 底側骨間筋(第 3 〜 5 中足趾節関節)
- 短小趾屈筋(第 5 中足趾節関節)
- 長趾屈筋
- 短趾屈筋
- 小趾外転筋(第 5 中足趾節関節)
第 1 中足趾節関節の伸展(背屈)に作用する筋
- 主動作筋
- 長母趾伸筋
- 短母趾伸筋
- 補助動筋
- なし
第 2 〜 5 中足趾節関節の伸展(背屈)に作用する筋
- 主動作筋
- 長趾伸筋
- 短趾伸筋(第 2 〜 4 中足趾節関節)
- 補助動筋
- なし
中足趾節関節の外転に作用する筋
- 主動作筋
- 短母趾屈筋(第 1 中足趾節関節)
- 母趾外転筋(第 1 中足趾節関節)
- 第 2 〜 4 背側骨間筋(第 2 〜 4 中足趾節関節)
- 小趾外転筋(第 5 中足趾節関節)
今回調査した文献には,外転に作用する筋の主動作筋と補助動筋との区別についての記述はありませんでした。
第 2 中足趾節関節の外転は第 2 趾が母趾から離れる動きです。
中足趾節関節の内転に作用する筋
- 主動作筋
- 母趾内転筋(第 1 中足趾節関節)
- 第 1 背側骨間筋(第 2 中足趾節関節)
- 底側骨間筋(第 3 〜 5 中足趾節関節)
今回調査した文献には,内転に作用する筋の主動作筋と補助動筋との区別についての記述はありませんでした。
第 2 中足趾節関節の内転は第 2 趾が母趾に近づく動きです。
中足趾節関節の安定化に作用する筋
中足趾節関節の安定化に作用する筋について明記している文献はありませんでしたが,母趾外転筋,母趾内転筋,短母趾屈筋の腱は第 1 中足趾節関節を安定させる作用があると考えてよさそうです18,26)。
脛骨に付着する筋はこちら。
腓骨に付着する筋はこちら。
足根骨に付着する筋はこちら。
中足骨に付着する筋はこちら。
足の指骨に付着する筋はこちら。
主な血液供給5)
今回調査した文献に中足趾節関節への血液供給に関する記述はありませんでした。
中足趾節関節の周囲に至る動脈には,背側中足動脈や底側中足動脈などがあります。
中足趾節関節の感覚神経支配
今回調査した文献に中足趾節関節の感覚神経支配に関する十分な記述はありませんでした。
「その他の足部関節は各関節を横断する神経枝によって支配される。それぞれの主要な関節は,おもに S1 と S2 の脊髄神経根に由来する複数の感覚神経の支配を受ける1)」との記述はあります。
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スポンサーリンク参考文献
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2023 年 10 月 3 日
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