歩行速度に関して最低限覚えておきたい重要な数値は以下の 3 つです。
- 普通の速さは 80 m / 分
- 4 km / 時は 3 METS
- 1 m / 秒以下なら遅い
できれば,もっとたくさんの数値を知っている方がいいのですが,記憶には限界があります。
きりが良くて覚えやすく,様々な場面で応用できそうなものを選びました。
それぞれ,詳しくみていきましょう。
普通の速さは 80 m / 分
80 m / 分は 4.8 km / 時ですので,普通の速さは 5 km / 時とした方が覚えやすいかもしれません。
80 m / 分という数字の出所は,不動産の表示における規則1)です。
「駅まで徒歩 10 分」というような表示がありますね。
あれは,80 m / 分で計算することになっています。
一般常識としても覚えておきたいところです。
次に歩行に関する文献2)も確認しておきましょう。
自由歩行という概念があります。
自由歩行とは,歩く速さを指定されない歩行であり,各個人が楽に歩ける速さでの歩行のことです。
そして,各々の身体的状況における機能的バランスが最適になるような速さでの歩行です。
ようするに,普通の速さです。
硬く平坦で滑らかな路面での自由歩行の平均速度は,大人で 82 m 〜 84 m / 分です2)。
80 m / 分よりも少し速いのですが,80 m / 分と丸めてしまっても大きな間違いではないでしょう。
また,82 m / 分は 4.92 km / 時で,84 m / 分は 5.04 km / 時ですので,間をとって,自由歩行速度は 5 km / 時くらいとしてもいいと思います。
性別や年齢によって平均値は変わるのですが,まずは 80 m / 分を覚えましょう。
4 km / 時は 3 METS
MET(代謝当量)を臨床で応用しようと思うと,他の活動の MET も覚えたほうがいいでしょうが,何事にも最初の一歩があります。
これは完全に正確な数値ではありません。
厚生労働省が出している健康づくりのための身体活動基準 20133)では,3 METS の運動の例として,「普通歩行(平地,67 m / 分,犬を連れて)」とあります。
67 m / 分は 4.02 km / 時ですので,健康づくりのための身体活動基準 2013 に基づけば,4 km / 時は 3 METS 弱ということになります。
他のものもみてみましょう。
第 54 回理学療法士国家試験4)の午後の問題 69 では,「通常歩行(4 km / h)の代謝当量(METs)はどれか」という問題で,正解は「3 〜 4 METs」になっています。
MET の数値はどれがスタンダードなのかという問題が気になりますが,とりあえずは,4 km / 時は 3 METS としておきましょう。
1 m / 秒以下なら遅い
普通の速さは 80 m / 分ですが,1 m / 秒は 60 m / 分に相当します。
まずは実用性の観点です。
屋外歩行の実用性を考える要素の一つに,横断歩道を青信号のうちに渡りきることができる歩行速度があります。
実際に横断歩道の青信号の点灯点滅時間を調べた報告5)があります。
歩行速度が 1 m / 秒であれば,98% の横断歩道を,青信号の点滅が終わるまでに渡ることができたそうです。
1987 年の調査であり,北九州市という限られた地域での調査ですので,今の全国の横断歩道には当てはまらないのかもしれません。
しかし,青信号の点灯時間を決める際には,歩行速度を 1 m / 秒として調整6)していますので,1 m / 秒というのは概ね妥当な数字になりそうです。
歩行速度が1 m / 秒を下回ると,今の日本の社会では,屋外を歩き回るのは大変になりそうだと予測できます。
次は,身体の異常のサインとしてみていきましょう。
AWGS 2019 によるサルコペニアの診断基準では,歩行速度のカットオフ値は 1 m / 秒です(別の記事でまとめています)。
また,「自由歩行の歩行速度が 60 m / 分以下の場合,高度の歩行障害を有している可能性がある」という報告2)もあります(60 m / 分 = 1 m / 秒)。
1 m / 秒という数字は,なんらかの異常のサインといえるでしょう。
1 m / 秒は覚えやすい数字ですし,計算もしやすい数字です。
ぜひ,覚えておいてください。
おわりに
普通の歩行速度は 4 km / 時であるという情報が結構あります。
普通をどう定義するかによりますから,間違いではないでしょうが,5 km / 時の方が自然だと思います。
現代人の歩行速度は古代人と比べて遅いという説があります。
古代バビロニア人は,太陽が地平線に顔を出し始めた瞬間から完全に出切ってしまった瞬間までの時間(2 分間)に歩く距離を,1 スタジオン(約 180 m)としたと推定されている7)そうです。
つまり,90 m / 分だったということです。
おすすめの記事
ランチョ・ロス・アミーゴ方式の歩行周期の定義(従来の用語との関連)
その他の歩行に関する記事の一覧はこちら
スポンサーリンク参考文献
1)一般社団1)一般社団法人全国公正取引協議会連合会ホームページ 不動産の表示に関する公正競争規約及び施行規則.
2)月城慶一, 山本澄子, 他(訳): 観察による歩行分析. 医学書院, 2006, pp17.
3)厚生労働省ホームページ 「健康づくりのための身体活動基準2013」及び「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)」について
4)厚生労働省ホームページ 第54回理学療法士国家試験、第54回作業療法士国家試験の問題および正答について.
5)高橋精一郎, 鳥井田峰子, 他: 歩行評価基準の一考察 – 横断歩道の実地調査より. 理学療法学. 1989; 16: 261-266.
6)警視庁ホームページ 交通信号機に関する意見・要望の窓口(信号機BOX)歩行者横断秒数の延長
7)大坂哲郎: これだけは知っておきたい歩き方の基本. 別冊山と渓谷WALK. 1984; 0: 28-31.
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2020 年 7 月 5 日
2021 年 8 月 30 日
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