研究法

エビデンスとは(狭義と広義)

投稿日:2019年7月17日 更新日:

エビデンスが意味することを,EBMの文脈と医療全体(患者の視点)の文脈のそれぞれにおいて考えてみました。

狭義のエビデンス

EBM (Evidence-Based Medicine) において,エビデンスという言葉は特別な意味で使われることがあり,それが狭義のエビデンスです。

EBM とは,大まかにいうと,従来の医療のプロセスに,臨床研究の結果の活用を加えるというものです。
そのEBMにおけるエビデンスとは,統計学的に優位な差がある臨床研究の結果です1)
これが狭義のエビデンスです。

広義のエビデンス

同じく EBM において,情報収集というステップがあります。
それは様々な判断を行ううえでの情報(根拠)を集めるというステップです。
つまり,エビデンスを集めるということです。

狭義のエビデンスである「統計学的に優位な差がある臨床研究の結果」だけを集めるのではありません。
以下のような様々な根拠を集めます。
そして,それらが広義のエビデンスです。

EBMの教科書2)から引用します。

情報の種類労力関連性妥当性
経験,直感
病態生理
他の医師の意見(同僚,先輩,専門医など)
教科書
ガイドライン,総説論文
原著論文
表1 情報源の種類と特徴

労力とは,その情報を得るのに要する労力です。
関連性とは,自分自身が取り組もうとする問題との関連性です。
妥当性とは,ここでは情報そのものの正しさを表します。

経験と直感はエビデンスなのか

経験と直感は,研究論文などの狭義のエビデンスの対極にあるようなものですが,立派なエビデンスです。

「統計学的に優位な差がある臨床研究の結果」が,目の前の患者にも当てはまるかどうかは,最後は経験と直感で判断するしかないからです。

でも,医療の世界でエビデンスといった場合,多くは,狭義のエビデンスの意味で使っています。

「その治療にはエビデンスはありますか?」という質問は典型的で,「その治療には効果があることを証明した研究はありますか?」という意味です。

それでも,EBMの流れの全体や,医療行為全体を正しく理解するためには,広義のエビデンスがあることも知っている必要があります。

広義のエビデンスの使用例

治療を行う時には患者にその理由を説明します。
そういう場面での,広義のエビデンス使用例を挙げていきます。

病態生理はよく説明します。
理学療法であれば,「ここの筋力が弱くて,姿勢が悪くなり,,,だから筋力をつけましょう」みたいな説明です。

カンファレンスを踏まえて,治療方針を変えるという説明をするときには,「他の医師(セラピスト)の意見」を使うことがあります。

「よく行われている治療なんです」という説明は「教科書」や「ガイドライン,総説論文」にあることを説明したことになります。
「ガイドラインで勧めらている治療です」という説明もあります。

「効果があることが研究で示されているんです」という説明は,あまりしませんが,話の流れで必要になることがあります。

「あなたと同じような症状の方を何人か経験しましたが,,,」という説明は,経験というエビデンスを使っています。
「他の患者とは少し違う反応が出ていますので,慎重に進めていきます」というような説明は,直感の要素が多い説明です。

おわりに

医療従事者同士の会話で「エビデンスは?」と聞かれて,「直感です」と答えたら,たいていは怒られます。
でも患者は狭義のエビデンスだけでは納得しません。
患者は広義のエビデンスも求めています。

関連記事

EBMの定義とステップについては別の記事に書いています。

参考文献

1)名郷直樹: EBMの現状と課題, エビデンスに基づく理学療法 活用と臨床思考過程の実際. 内山靖(編), 医歯薬出版, 2008, pp18-38.
2)名郷直樹: EBM実践ワークブック-よりよい治療をめざして-. 南光堂, 1999, pp98-99.

2020年9月27日
2019年7月22日
2019年7月17日

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