解剖生理

二重神経支配の筋 覚える意味と全リスト

投稿日:2017年12月21日 更新日:

理学療法士が二重神経支配の筋を覚える意味をまとめています。
後半は二重神経支配の筋の全リストです。

覚える意味

二重神経支配の筋とは,複数の神経に支配されている筋のことです。

ある末梢神経が完全に断裂した場合,その神経のみに支配される筋であれば,その筋の筋力は完全に失われます。
でも,二重神経支配の筋であれば,1本の神経が断裂しても,別の神経が生きているので,ある程度の筋力が保たれます。
神経損傷による症状を考えるうえで重要な知識です。

また,二重神経支配になっている理由を想像してみることを通して,解剖学の知識が深まります。
二重神経支配の筋は,多頭筋や多腹筋であったり,幅広かったり,「端っこ」であったりします。

内転筋群は閉鎖神経に支配されますが,恥骨筋は大腿神経,大内転筋は坐骨神経にも支配されます。
この2つの筋は内転筋群の両端で,恥骨筋は大腿神経に支配される筋群に近い側,大内転筋は坐骨神経に支配される筋群に近い側にあります。
筋の並び方は複雑なところもあり,端という表現は良くないかもしれませんが,筋の並びを印象づけてくれます。

短母指屈筋は浅頭が正中神経,深頭が尺骨神経に支配されます。
このことで短母指屈筋が多頭筋であることが印象づけられます。

筋やその神経支配を覚えるのは大変ですが,様々な視点で少しづつ覚えていけばいいと思います。

全リスト

以下は二重神経支配の筋のリストです。
筋の神経支配は,正確に分かっていなかったり,個人差もありますから,調べれば調べるほど,違いをみつけてしまいます。
今回は基礎運動学からリストアップし,日本人体解剖学と解剖学アトラスでも確認して,一致しないところなどをまとめました。

胸鎖乳突筋 副神経,頸神経叢
顎二腹筋 前腹:顎舌骨筋神経(三叉神経),後腹:顔面神経
肩甲挙筋 肩甲背神経,頸神経
僧帽筋 副神経,頸神経
横突間筋 脊髄神経後枝,脊髄神経前枝
内腹斜筋 肋間神経,腸骨鼡径神経,腸骨下腹神経
腹横筋 肋間神経,腸骨鼡径神経,腸骨下腹神経,陰部大腿神経
大胸筋 内側胸筋神経,外側胸筋神経
小胸筋 内側胸筋神経,外側胸筋神経
上腕筋 筋皮神経,ときに橈骨神経
円回内筋 正中神経,ときに筋皮神経
深指屈筋 正中神経,尺骨神経
(手の)短母指屈筋 浅頭:正中神経,深頭:尺骨神経
(手の)虫様筋 正中神経,尺骨神経
掌側骨間筋 尺骨神経,橈骨側の一部は正中神経を受けることがある
(手の)背側骨間筋 尺骨神経,橈骨側の一部は正中神経を受けることがある
恥骨筋 大腿神経,閉鎖神経
大内転筋 深層:閉鎖神経,表層:坐骨神経
大腿二頭筋 長頭:脛骨神経,短頭:腓骨神経
母趾外転筋 内側足底神経,外側足底神経
短母趾屈筋 内側足底神経,外側足底神経
(足の)虫様筋 内側足底神経,外側足底神経

前斜角筋,中斜角筋,頸長筋は基礎運動学では頸神経前枝となっていますが,日本人体解剖学では頚神経叢および腕神経叢の枝となっています。

外腹斜筋は基礎運動学では肋間神経だけです。しかし,日本人体解剖学の第18版では肋間神経,腸骨下腹神経,腸骨鼡径神経となっています。でも同じ日本人体解剖学の第19版では肋間神経だけです。

母趾外転筋は,基礎運動学では内側足底神経と外側足底神経ですが,日本人体解剖学と解剖学アトラスでは内側足底神経のみとなっています。

基礎運動学で肩甲挙筋と僧帽筋は頸神経となっています。
間違いではないでしょうが,頸神経叢とする方がよさそうです。
頸神経というというのは分類の上流の名前です。
頸神経から肩甲背神経が分かれていきますから。

横突間筋は基礎運動学では脊髄神経後枝と脊髄神経前枝となっています。
日本人体解剖学では,頸および腕神経叢の枝と第1〜第5腰神経後枝の外側枝に支配されていると書かれています。
頸部では前枝,腰部では後枝であるということのようです。

頸部の横突間筋には頸前横突間筋と頸後横突間筋がありますが,それぞれの支配神経は書かれていませんでした。

錐体筋は,基礎運動学と日本人体解剖学では二重神経支配になっていませんが,他の文献5)にあたってみると二重神経支配のことがあると書かれています。

表情筋は顔面神経支配ですが,顔面神経の枝のレベルでみれば,複数の枝に支配される表情筋があります。
例えば,眼輪筋は側頭枝と頬骨枝に支配されています。
でもこれを二重神経支配とはしないようです。
二重神経支配の定義は曖昧です。

同じ名前だけどいくつかある筋,例えば,横突間筋や虫様筋ですが,これらを二重神経支配と呼ぶのは不自然な気もします。

参考文献

1)中村隆一, 斎藤宏, 他:基礎運動学(第6版補訂). 医歯薬出版株式会社, 2013.
2)金子丑之助:日本人体解剖学上巻(改訂19版).南山堂,2002.
3)金子丑之助:日本人体解剖学第1巻(第18版).南山堂,1993.
4)越智淳三(訳):解剖学アトラス(第3版). 文光堂, 2001.
5)時田幸之輔, 深澤幹典, 他:錐体筋の形態形成について. 理学療法学. 2006; 33(suppl 2): 424.
6)時田幸之輔, シャーマバンネヘカ, 他:錐体筋とその支配神経. 理学療法学. 2005; 32(suppl 2): 209.

関連する記事

筋の神経支配の覚え方 ざっくりと覚える方法
腕神経叢の要点を正攻法で覚える

2020年5月8日
2019年4月15日
2017年12月21日

-解剖生理

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

関連記事

no image

サイズの原理とは

サイズの原理とは1) サイズの原理 size principle は,運動単位が動員される順序に関する原理です。筋が収縮するときには,小さな運動単位が先に動員され,より強い力が要求されるとより大きな運 …

腕神経叢の模式図

腕神経叢の要点を正攻法で覚える

腕神経叢の重要なところを覚える方法です。語呂合わせとかではなく解剖学的な位置関係を踏まえた正攻法です。 図1を見ながらお読みください。 図1 神経幹 C5〜Th1から始まり,上・中・下神経幹の3幹に分 …

no image

筋の神経支配の覚え方 ざっくりと覚える方法

筋の神経支配を覚えるのは本当に大変です。しかし,覚えるしかありません。全て正確に覚えるのが最終目標ですが,大雑把に覚える方法があります。 下腿後面に手をあてて「1,2」大腿前面に手をあてて「3,4」上 …

no image

多関節筋(二関節筋)の一覧

多関節筋の一覧を作ってみました。 多関節筋とは 多関節筋とは,2つ以上の関節にまたがっている筋です。2つの関節をまたぐのであれば二関節筋で,1つだけなら単関節筋(一関節筋)です。 もう少し正確に多関節 …

no image

エリスロポエチンとは

エリスロポエチン(erythropoietin; EPO)について簡単にまとめてみます。 エリスロポエチンとは 赤血球濃度の調節に働く物質です。エリスロポエチンが放出されると,骨髄に作用し,赤血球が増 …