足関節上腕血圧比(ABI)について簡単に説明します。
また,関連する理学療法士国家試験の解説もあります。
足関節上腕血圧比の定義1,2)
足関節上腕血圧比(ankle-brachial index: ABI)とは,上肢と下肢の血圧の比(下肢の血圧 / 上肢の血圧)です。
上肢と下肢の血圧はほぼ等しいか,下肢の血圧の方がやや高いのが正常です。
下肢の動脈に狭窄や閉塞があれば,下肢の血圧が上肢と比べて低くなり,ABI は低下します。
より正確な定義は,「後脛骨動脈または足背動脈のうち高い方の収縮期血圧 / 左右の上肢血圧のうち高い方の収縮期血圧」です。
左右の ABI を測定するのですが,上肢の血圧は左右どちらかのみを使うことになります。
足関節上腕血圧比測定の意義1-4)
下肢の末梢動脈疾患の診断に用いられます。
さらに, ABI 低値であれば,心筋梗塞や脳梗塞も多いことから,全身の動脈硬化性の疾患のスクリーニングとしても用いられます。
上肢の動脈では閉塞性病変が少ないことを利用した指標です。
下肢ではなく上肢の動脈に閉塞性病変があって ABI が高値となることもあります。
足関節上腕血圧比の基準値1-4)
基準値には少しばらつきがあります3)。
正常値
1.00 〜 1.39 あるいは 1.00 〜 1.29
異常低値
≤ 0.90 あるいは < 0.90
血圧は狭窄が動脈断面積の 60 〜 70% になってから低下し始めます。
つまり,狭窄がある程度進行しないと, ABI 低値にはならないということです。
ABI 0.9 をカットオフ値とした場合 CT アンギオグラフィ上の 50% 以上狭窄の診断精度は感度75%,特異度 86% です2)。
感度,特異度についてはこちら。
境界領域
0.91 〜 0.99 あるいは 0.90 〜 0.99
異常高値
≥ 1.40 あるいは > 1.40 あるいは ≥ 1.30
下肢において動脈硬化が著しいと,動脈がカフで十分に駆血できないために,下腿での血圧が高値となります。
測定の実際1)
カフを巻くのは,上肢は通常の血圧測定と同じで,下肢は下腿の遠位部です。
2 つの方法があります。
ドプラ法は聴診器のかわりに超音波ドプラ血流計を使います。
左右の上腕動脈,左右の足背動脈・後脛骨動脈(6 カ所)で測定することになります。
オシロメトリック法は自動血圧計による測定です。
両上腕用と両下腿用の 4 つのカフを搭載し,動脈から伝わる振動をカフが感知することで,同時に4 カ所の血圧を測定できる機器を使います。
ドプラ法より簡単で短時間で測定できますが,精度は下がります。
足背動脈と後脛骨動脈を分けることもできません。
下肢の末梢動脈疾患では,安静時と比べて歩行後に ABI が低下するため,背臥位で 10 分間の安静の後に測定します4)。
通常の血圧計のカフを下腿遠位部に巻き,聴診器を後脛骨動脈または足背動脈にあてることで測定できますが,聴診が難しいため,現実的ではありません。
記録
小数点以下第 2 位まで記載します4)。
関連する国家試験問題
第 55 回理学療法士国家試験 午前 問題 25
健常成人の血圧に関して正しいのはどれか。2 つ選べ。
1.背臥位では立位に比べて脈圧が小さい。
2.足関節上腕血圧比の基準値は 1.5 〜 2.0 である。
3.上腕部では足部と比べて収縮期血圧が低くなる。
4.座位での測定はマンシェットを心臓の高さに合わせる。
5.Korotkoff 音が聞こえなくなった時点での圧を収縮期血圧とする。
正解 3, 4
解説
1.脈圧は収縮期血圧と拡張期血圧の差です。
立位から背臥位になった直後は,収縮期血圧は上がり,拡張期血圧は下がる傾向がありますので,背臥位では立位に比べて脈圧は大きくなります。
ただし,背臥位を続けると立位での血圧に近づきますし,血圧の変動がほとんどない人もいます5)。
2, 3.上肢と下肢の血圧はほぼ等しいか,下肢の血圧の方がやや高いのが正常です(前述)。
ですので,足関節上腕血圧比の値は,1 あるいは 1 より少し大きな値になるはずです。
1.5 〜 2.0 という数値は明らかに大きすぎる数値です。
例えば,上肢での血圧が 150 mmHg だとして,足関節上腕血圧比が 2.0 であるなら,下肢の血圧は 300 mmHg ということになります。
正常値を覚えていなくても,間違いであることが分かります。
4, 5.省略
余談ですが……
検査の名称に足関節が使われていますが,やや分かりにくい表現だと感じます。
上腕は,上腕動脈やカフを巻く上腕のことだと思います。
足関節は,後脛骨動脈や足背動脈の血管音を足関節のレベルでとることのようです。
巻く所などで統一した方がいいような気もします。
あわせて読みたい
参考文献
1)渡部芳子: オシロメトリック法を用いた足関節上腕血圧比測定の特性と測定結果の評価. 超音波検査技術. 2019; 44: 599-605.
2)田畑範明, 掃本誠治: ABI (ankle-brachial index). 動脈硬化予防. 2016; 15: 88-90.
3)冨山博史, 山科章: 足関節上腕血圧比・足趾上腕血圧比・脈波伝播速度. Angiology Frontier. 2016; 15: 15-22.
4)重松邦広, 宮田哲郎: ABI について. 臨床病理レビュー. 2013; 151: 38-46.
5)日野原重明, 阿部正和, 他: バイタルサイン そのとらえ方とケアへの生かし方. 医学書院, 1993, pp64.
2020 年 8 月 23 日
2022 年 2 月 9 日
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