感覚検査を行う目的 – 表在感覚と深部感覚

はじめに

感覚検査を行う目的をまとめます。
理学療法士が行う目的が中心です。
表在感覚と深部感覚の主なものを取り上げます。
複合感覚については,別の記事でまとめています。

診断上の目的

感覚障害は運動障害とならんで,神経疾患の重要な徴候です。
感覚障害はその感覚の受容器,伝導路,大脳の知覚領野などに病巣があることを表します。
もちろん,理学療法士は診断は行いませんが,病巣についての情報は次に説明する理学療法を行う上での判断に利用できます。

理学療法での感覚検査の目的

あたりまえのことですが,理学療法を行う上での判断や選択を行うための情報を得ることが感覚検査の目的です。
障害構造を把握したり,運動療法,ADL 指導,リスク管理などの介入方法を選択したり,予後予測を行ったりします。

ICF の分類では,感覚は心身機能に含まれ,感覚障害は機能障害になります。
そして感覚検査は機能障害の検査です。
ヒトの運動において感覚は重要な役割を担います。
感覚の障害があれば運動の障害が生じます。

運動療法には,感覚刺激を入れることで反応を得ようとするものがたくさんあります。
そのような運動療法では,感覚入力ができる部位を探したり,感覚入力がどの程度期待できるかを調べる必要があり,感覚検査が必要になります。

感覚障害があれば,人体に危害を及ぼすものに対し無防備になります。
リスクを管理するため,感覚障害の検査は重要です。

感覚障害の原因となっている病巣についての情報があれば,予後予測をより正確に行うことができます。
しかし,診断的な解釈は本来は医師が行うものであり,グレーゾーンでもあります。

各検査の目的

触覚検査

触覚の障害があれば,動作の障害が起こります。
例えば,手の触覚の障害があれば,手で物を持つことが難しくなります。
各動作を分析するときには,その動作において何かに接触する部位の触覚の検査が必要です。
歩行であれば足底と地面が接触していますし,起き上がりであれば体幹とベッドが接触しています。

原始触覚の伝導路は反対側の前脊髄視床路で,識別性触覚の伝導路は同側の後索です。
触覚検査では,両方の伝導路を同時に調べていることになります6)

触覚検査でレベル診断に行うことができます。
例えば,脊髄損傷では,どの髄節で損傷を受けているのかが分かります。

痛覚検査

痛覚には侵害刺激から身体を守る働きがあります。
痛覚の障害があると,外傷や熱傷などが起こりやすくなるため,予防のための教育が必要になります。

痛覚は障害があっても患者自身は気づかないことがあります。
痛みがなければ,痛みを起こすようなことが起こっていないと解釈するからです。
痛覚検査は痛みを伴う不快な検査ですが,積極的に行う必要があります。

痛覚の伝導路は対側の外側脊髄視床路です。

痛覚検査もレベル診断で使われます。

温度覚検査

痛覚と同じで,温度覚の障害があると,熱傷などが起こりやすくなります。
暖房による火傷などは意外に多いので注意が必要です。

温熱療法や寒冷療法を行うときには必須の検査です。

温度覚の伝導路は対側の外側脊髄視床路です。

温度覚もレベル診断に使われます。
岩田4)は「痛覚鈍麻の境界を定めるより温度覚鈍麻の境界を定めるほうが容易である場合が多いので,痛覚鈍麻の境界が決定しにくいときには,温度覚の検査を行うのがよい」と述べていますが,準備に手間のかかる検査であり,理学療法士が行うことは少ないように思います。

関節覚検査

関節覚の障害があれば,運動の障害が生じます。
脊髄性運動失調が有名です。

位置覚障害による近位関節でのずれは,遠位部の大きなずれにつながります。
近位関節の位置覚は特に重要です。

位置覚は静的な感覚で,受動運動覚は動的な感覚です。
理学療法において,位置覚と受動運動覚の検査をどのように使い分け,どのように運動療法につなげていくのかは,まだ明らかにはなっていないようです。
個人的には,認知運動療法(認知神経リハビリテーション)の分野で理学療法における感覚検査の意味が整理されていくのではないかと期待しています。

母指さがし試験は,関節覚障害のスクリーニング検査として利用できます。
上肢の到達機能の障害を調べたいときにも利用できます。
手を使用するとき,母指の位置を認識できていないと,手を自由に使うことが難しくなります。

関節覚の伝導路は同側の後索です。

振動覚検査

高齢者の転倒は振動覚障害が影響している可能性があり,振動覚検査によって転倒を予測できる可能性があります5)

振動覚の伝導路は同側の後索となっていますが,側索という説6)もあります。

糖尿病性多発神経障害の簡易診断基準7)に含まれます。

理学療法におけるより応用的な感覚障害の捉え方

神経内科学の教科書に載っている感覚検査は,医師のための感覚検査であり,病変がどこにあるかを調べるといった,診断のための検査が中心です。
ピンポイントで病変部位を探そうと思えば,様々な条件で検査結果がばらついてしまうことを避けなければなりません。
安静な状態で検査に集中して単発刺激に対する応答を調べることが基本となります。

理学療法では,感覚障害を神経疾患の徴候として捉えるのではなく,機能障害として捉えます。
実際の生活場面や,そこで必要とされる動作において,感覚が機能しているかどうかが問題となります。
代償であっても感覚が使えるのであれば,障害の程度は軽いと判断できます。
また,注意の問題で感覚の障害が生じる場合など,つまり,狭い意味での感覚に関わる組織に問題があるわけではない場合があります。
原因が何であれ,感覚機能に障害があれば日常生活の障害が生じるのですから,理学療法においては重要なことです。

理学療法では基本的な検査に加えて,実際の生活場面での感覚検査や,随意運動中や外乱負荷中の感覚検査を行います。

例えば,理学療法室で触覚検査を行った結果が中等度鈍麻から軽度鈍麻までばらつき,集中できる環境で検査を行えば軽度鈍麻であったとします。
診断においては「結局,触覚鈍麻は軽度だから,損傷部位も小さいのだろう」というような判断につながります。
理学療法においては,「集中できない環境で感覚情報をうまく扱えないようだから,病院では転倒しなくても屋外では転倒するかもしれない」というような判断につながります。

理学療法士と医師の違いを通して説明しましたが,実際の現場では両方の考え方が必要です。

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検査方法についての記事もあります。

触覚検査

位置覚(位置感覚)の検査

受動運動覚の検査

母指さがし試験(関節定位覚)

振動覚の検査-検査器具,検査方法,判定基準など

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参考文献

1)田崎義昭, 斎藤佳雄: ベッドサイドの神経の診かた(改訂18版). 南山堂, 2020.
2)田中亮: 感覚検査, 15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト 理学療法評価学I. 石川朗(編), 中山書店, 2013.
3)中田眞由美, 岩崎テル子: 知覚をみる・いかす-手の知覚再教育. 協同医書出版社, 2005.
4)岩田誠: 神経症候学を学ぶ人のために. 医学書院, 2004, pp262-276.
5)吉川義之, 福林 秀幸, 他: 音叉を用いた振動覚検査による転倒リスク評価. 理学療法科学. 2009; 24: 53-57.
6)平山惠造: 神経症候学(改訂第2版)II. 文光堂, 2010, pp394-400.
7)糖尿病性神経障害を考える会: 糖尿病性多発神経障害(distal symmetric polyneuropathy)の簡易診断基準. 末梢神経. 2003; 14: 225-227.

2019 年 6 月 27 日 加筆修正
2019 年 5 月 31 日 加筆修正
2018 年 7 月 3 日

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