Japan Coma Scale(JCS)に関する国家試験問題の解説です。
解が得られない不適切問題になるのでは?という問題提起です。
また,じっくり取り組んでみると,色々と学べるところがあって面白いので,取り上げてみました。
まずは問題を引用します。
第 54 回理学療法士国家試験午前問題 10
65 歳の男性。視床出血による左片麻痺。救急搬送され保存的治療が行われた。発症後 3 日より脳卒中ケアユニットでの理学療法を開始。このとき覚醒しておらず、大きな声で呼びかけたが開眼しなかったため胸骨部に痛み刺激を加えたところ、刺激を加えている手を払いのけようとする動きがみられた。
この患者の JCS(Japan Coma Scale)での意識障害の評価で正しいのはどれか。1. II – 10
2. II – 20
3. II – 30
4. III – 100
5. III – 200
解説
正答は 4. III-100 です。
「胸骨部に痛み刺激を加えたところ、刺激を加えている手を払いのけようとする動きがみられた」のですから,III – 100 の基準である「痛み刺激に対し,はらいのけるような動作をする」にあてはまります。
どちらかというと,簡単な問題です。
しかし,ちゃんと考えてみると,この問題は正解が得られないことが分かります。
問題点
JCSは,まず,覚醒状態で 1 〜 3 桁の 3 段階に分かれます。
刺激によって覚醒すれば 2 桁,覚醒しなければ 3 桁です。
具体的には,開眼するかどうかを確認する必要があります。
問題の設定では,手を払いのけようとする動きが見られたのですが,その時に,開眼したのかどうかは書かれていません。
II – 30 の判定基準は「痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すとかろうじて開眼する」です。
もし,手を払いのけようとする動きと同時に開眼していたのなら,判定は II – 30 になります。
正確には痛み刺激と同時に呼びかけをしなければならないのですが,開眼したのなら,III – 100 にはなりません。
別の可能性も考えてみましょう。
II – 20 判定基準は「大きな声または体をゆさぶることにより開眼する」です。
問題の設定では「大きな声で呼びかけたが開眼しなかった」のですが,揺さぶったのかどうかは書かれていません。
もし,揺さぶって開眼していれば,判定は II – 20 となります。
よって解なしになると思います。
臨床に応用してみよう
実際に判定をする場面を想像してみるとどうなるでしょう。
痛み刺激を与えたとき,払いのける動作に注意が向いてしまい,開眼したことに気がつかないということがあるかもしれません。
痛み刺激を与えるときには,まずは,開眼するかどうかを確認することが大切だということが分かります。
判定するときには,前後のスケールに当てはまらないかを考えることが大切です。
各スケールの基準だけでなく,各基準の組み合わせによっても判定することが大切だということが分かります。
そこまで考えれば,国家試験勉強が臨床に役立ちます。
おわりに
不適切な問題でも,それが採点除外になるとは限りません。
受験者は問題作成者の意図や誤りを想像して解かなければなりません。
大変ですが,実際の社会ではこのようなことはよくあることですので,いい社会勉強になるのかもしれません。
JCS については,以下の記事で詳しく解説しています。
Japan Coma Scale(JCS,3-3-9度方式)の詳細
スポンサーリンク参考文献
1)田崎義昭, 斎藤佳雄: ベッドサイドの神経の診かた(改訂18版). 南山堂, 2020, pp280.
2)太田富雄, 和賀志郎, 他: 急性期意識障害の新しいGradingとその表現法(いわゆる3-3-9度方式). 第3回脳卒中の外科研究会講演集. 1975; 61-68.
3)太田富雄: 意識障害スケール3-3-9度方式と今後の展開. 日本臨牀. 2006; 64: 242-247.
4)太田富雄: 意識障害の評価法. Clin Neurosci. 2002; 20: 412-416.
5)第54回理学療法士国家試験、第54回作業療法士国家試験の問題および正答について
6)第54回理学療法士国家試験及び第54回作業療法士国家試験の合格発表について
2020 年 5 月 2 日
2020 年 6 月 2 日
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