はじめに
介護が必要になった原因に関する国家試験問題の解説です。
まずは,問題を引用します。
第 56 回理学療法士国家試験 午前 22
65 歳以上の要介護者または要支援の認定を受けた人で介護が必要となった原因の割合(平成 28 年度国民生活基礎調査)が最も高いのはどれか。
1.糖尿病
2.認知症
3.関節疾患
4.骨折・転倒
5.高齢による衰弱
正解 2
平成 28 年度国民生活基礎調査
平成 28 年度国民生活基礎調査の結果より,関係のあるところを抜粋して表 1 に示します。
10万人あたりの人数 | 割合 | |
認知症 | 17989 | 18% |
脳血管疾患(脳卒中) | 16582 | 17% |
高齢による衰弱 | 13295 | 13% |
骨折・転倒 | 12074 | 12% |
関節疾患 | 10173 | 10% |
その他 | 8210 | 8% |
心疾患(心臓病) | 4633 | 5% |
パーキンソン病 | 3090 | 3% |
糖尿病 | 2739 | 3% |
悪性新生物(がん) | 2385 | 2% |
脊髄損傷 | 2268 | 2% |
呼吸器疾患 | 2167 | 2% |
不詳 | 2011 | 2% |
視覚・聴覚障害 | 1325 | 1% |
わからない | 1059 | 1% |
表の通りで,認知症が最も高くなっています。
この調査は,調査票を調査対象者が自ら記入するものです。
原因としてあてはまるものは全て選び,さらに主な原因を 1 つ選ぶようになっています。
原因は自己申告によるものであり,介護認定の情報を使ったものではありません。
ですので,理学療法士などの専門家が考える主な原因とは異なるのかもしれません。
他の年度の調査結果
平成 19 年度 〜 令和 4 年度の調査結果を表 2 に示します。
サンプル 10 万人あたりの人数です。
調査は毎年行われていますが,介護に関しては 3 年毎の大規模調査の時だけ調査されます。
平成19年度 | 平成22年度 | 平成25年度 | 平成28年度 | 令和元年度 | 令和4年度 | |
脳血管疾患(脳卒中) | 23337 | 21485 | 18456 | 16582 | 16095 | 16083 |
心疾患(心臓病) | 4287 | 3946 | 4487 | 4633 | 4542 | 5124 |
悪性新生物(がん) | 1779 | 2257 | 2338 | 2385 | 2613 | 2735 |
呼吸器疾患 | 2145 | 2800 | 2405 | 2167 | 2654 | 1993 |
関節疾患 | 12155 | 10891 | 10902 | 10173 | 10786 | 10186 |
認知症 | 13976 | 15337 | 15794 | 17989 | 17578 | 16580 |
パーキンソン病 | 2790 | 3209 | 3402 | 3090 | 2345 | 3525 |
糖尿病 | 2692 | 3005 | 2841 | 2739 | 2521 | 2888 |
視覚・聴覚障害 | 1543 | 2131 | 1750 | 1325 | 1352 | 1078 |
骨折・転倒 | 9339 | 10180 | 11821 | 12074 | 12530 | 13881 |
脊髄損傷 | 2515 | 1752 | 2314 | 2268 | 1532 | 2220 |
高齢による衰弱 | 13620 | 13710 | 13373 | 13295 | 12822 | 13192 |
その他 | 6123 | 7489 | 7569 | 8210 | 9146 | 7134 |
わからない | 1229 | 866 | 991 | 1059 | 1073 | 1265 |
不詳 | 2471 | 941 | 1555 | 2011 | 2413 | 2117 |
次に,原因の推移が分かりやすくなるよう,上位 5 つを抽出してグラフで示します(図 1)。
上位 5 つの原因は変わっていませんが,順位は変わっています。
脳血管障害が 1 位でしたが,平成 28 年度からは認知症が 1 位になっています。
骨折・転倒が増えてきており,令和 4 年度に高齢による衰弱を抜いて 3 位になりました。
おわりに
次の大規模調査は,令和 7 年(2025年)のはずです。
上述の問題は令和 2 年度(2020年度)の試験ですが,令和元年度(2019年度)の調査ではなく平成 28 年度(2016年度)の調査に基づいた問題になっています。
次の令和 5 年度(2023年度)の国家試験で同じような問題が出題されるとしたら,どの年度の調査に基づいたものになるのでしょうか?
最新の令和 4 年度(2022年度)の調査ではなく,令和元年度(2019年度)の調査に基づくのかもしれません。
参考文献
1)厚生労働省: 国民生活基礎調査(2023年7月19 日引用).
2021 年 5 月 8 日
2023 年 7 月 19 日
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