足部の運動を表す用語で,定義が統一されていないものがあります。
「回内 pronation / 回外 supination」と「外がえし eversion / 内がえし inversion」です。
そのことについて簡単にまとめました。
足部の運動
まずは対象となる足部の運動を確認します。
足部の運動で,足底が内側や外側を向く動きには以下の 2 つがあります。
後の説明で使いますのでよく覚えておいてください。
前額面運動
前額面のみでの動きで,運動軸は矢状面と水平面に対して平行です。
三平面運動 triplane motion
前額面,矢状面,水平面の全ての面での動きで,運動軸は 3 つの面に対して斜めです。
複合運動ということもあります。
運動を表す用語の使い方(定義)
先に挙げた 2 つの運動を表す用語が統一されていません。
日本では以下のような使い方が多いようです。
- 前額面運動で足底が外側を向く(図 1 左):回内 pronation
- 前額面運動で足底が内側を向く(図 1 右):回外 supination
- 三平面運動で足底が外側を向く(図 2 左):外がえし eversion
- 三平面運動で足底が内側を向く(図 2 右):内がえし inversion
外がえしは,背屈,外転,回内の複合運動です。
内がえしは,底屈,内転,回外の複合運動です。
この使い方をしているのは,基礎運動学1),カパンディ関節の生理学3),図解 関節・運動器の機能解剖10)などです。
英語圏では逆になることが多いようです4)。
- 前額面運動で足底が外側を向く(図 1 左):外がえし eversion
- 前額面運動で足底が内側を向く(図 1 右):内がえし inversion
- 三平面運動で足底が外側を向く(図 2 左):回内 pronation
- 三平面運動で足底が内側を向く(図 2 右):回外 supination
回内は,背屈,外転,外がえしの複合運動です。
回外は,底屈,内転,内がえしの複合運動です。
この使い方をしているのは,筋骨格系のキネシオロジー5),ブルンストローム臨床運動学9),そして 2022 年に改定された「関節可動域表示ならびに測定法11)」です。
同じ言葉を逆の意味で使っていますので,かなり面倒ですね。
理学療法の教科書での注意点
理学療法の主要な教科書等において,足部の運動表示に関して,あやふやなところや,先にあげた定義とは異なる使い方がなされているところがあります。
基礎運動学
基礎運動学には外がえし / 内がえしの説明は載っています1)が,足部の回内・回外の説明は載っていないようです。
関節可動域表示ならびに測定法(旧版)2)
足部の外がえし・内がえしという項目があります。
そこで測定する動きは足部の前額面での動きですから,回内・回外と呼ぶべきなのですが,「実際は,単独の回旋運動は生じ得ないので複合した運動として外がえし,内がえしとした」となっています。
かなり分かりづらくなっています。
関節可動域測定での外がえし・内がえしは,運動を表す用語ではなく,測定を表す用語であると解釈するといいのかもしれません。
徒手筋力検査法6)
外がえし・内がえしがやや曖昧に使われています。
「足関節の背屈と足の内がえし(前脛骨筋)」
ここでの内がえしは,前額面運動で足底が内側を向く動きを意味しています。
「足の内がえし(後脛骨筋)」
この検査での動きは「足を下方で内側に動かす」ですので,この内がえしは,三平面運動のようです。
「足の底屈を伴う外がえし(長,短腓骨筋)」
ここでの外がえしは,前額面運動で足底が外側を向く動きを意味しているようです。
そうなると,外転が生じてはいけないことになりますが,そのことは明記されていません。
Clinical Kinesiology
第 5 版7)では,「eversion-inversion と pronation-supination はほとんど同じ意味で使い,eversion-inversion は open-chain motion で使うことが多く,pronation-supination は closed-chain motion で使うことが多い」としています。
主流ではない使い方ですが,こういうニュアンスが含まれた表現がなされることがありますので,知っておいて損はないでしょう。
統一の試み
日本足の外科学会が「足関節・足部・趾の運動に関する用語案8)」を作っています。
前額面運動を外がえし eversion / 内がえし inversion,三平面運動を回内 pronation / 回外 supination と定義しています。
そして,この用語案にもとづいて新しい関節可動域表示ならびに測定法11)が作られています。
今後はこれで統一されていくのではないでしょうか。
三平面運動の定義の問題点
三平面運動の定義は二通りあります。
一つは,1 軸での運動で,その軸に合わせて回転した座標軸では一つの平面での運動として表現できますが,もとの身体の基本面で表現すると三平面での運動となってしまう運動です。
距腿関節の底屈・背屈は厳密には回内・回外であり,この定義での三平面運動です。
もう一つは,3 軸での運動であり,実際に三つの平面での運動が生じている運動です。
足全体での回内・回外は,この定義での三平面運動です。
曖昧なまま使われていることがあり,注意が必要です。
こちらもおすすめ
スポンサーリンク参考文献
1)中村隆一, 齋藤宏, 他: 基礎運動学(第6版補訂). 医歯薬出版, 2013, pp262.
2)米本恭三, 石神重信, 他: 関節可動域表示ならびに測定法. リハビリテーション医学. 1995; 32: 207-217.
3)荻島秀男(監訳): カパンディ関節の生理学 II 下肢 原著第5版. 医歯薬出版, 1995, pp170-171.
4)銅冶英雄, 村田淳, 他: 足部運動表示における内がえし(inversion)/ 外がえし(eversion)の定義 – triplane motion か,coronal plane motion か?- . Jpn J Rehabil Med. 2007; 44: 286-292.
5)P. D. Andrew, 有馬慶美, 他(監訳):筋骨格系のキネシオロジー 原著第3版. 医歯薬出版, 2020, pp656-657.
6)津山直一, 中村耕三(訳): 新・徒手筋力検査法(原著第10版). 協同医書出版社, 2022, pp285-294.
7)Smith LK, Weiss EL, et al.: Brunnstrom’s Clinical Kinesiology(5th edition). F.A.Davis, 1996, pp341.
8)日本足の外科学会用語委員会 足関節・足部・趾の運動に関する用語案.
https://www.jssf.jp/medical/download/parlance2.pdf(2022年8月3日引用).
9)武田功(統括監訳): ブルンストローム臨床運動学原著第6版. 医歯薬出版, 2013, pp435.
10)井原秀俊, 中山彰一, 他(訳): 図解 関節・運動器の機能解剖 下肢編. 協同医書出版社, 2006, pp142-146.
11)関節可動域表示ならびに測定法改訂に関する告知(2022年4月改訂). https://www.jarm.or.jp/member/kadou.html(2022年8月3日引用).
2019 年 11 月 3 日
2019 年 12 月 5 日
2022 年 8 月 3 日
2022 年 12 月 8 日
コメント