はじめに
遠位足根間関節 distal intertarsal joints の解剖(構造)と運動について基本的なところをまとめます。
横足根関節よりも遠位にある足根間関節で,距骨下関節と横足根関節(距舟関節と踵立方関節)以外の足根間関節です。
楔舟関節 cuneonavicular joint,立方舟関節 cuboideonavicular joint,楔間関節(楔状骨間関節) intercuneiform joint,楔立方関節 cuneocuboid joint からなります。
楔状骨間関節と楔立方関節をあわせて,楔状骨間関節と楔立方関節の複合体 intercuneiform and cuneocuboid joint complex と呼ぶ場合1)があります。
目次
- 遠位足根間関節を構成する骨と関節面
- 関節の分類
- 遠位足根間関節の靱帯
- 遠位足根間関節の関節包
- 遠位足根間関節の滑液包
- 遠位足根間関節の運動
- しまりの肢位(CPP)と最大ゆるみの肢位(LPP)
- 関節内圧
- 遠位足根間関節に作用する筋
- 主な血液供給
- 遠位足根間関節の感覚神経支配
遠位足根間関節を構成する骨と関節面
楔舟関節 cuneonavicular joint
舟状骨と内側・中間・外側楔状骨との間にできる 3 つの関節からなります。
- 舟状骨の前面(凸面4,22))
- 楔状骨の後面(凹面4,22))
関節面の名称はないようです。
舟状骨の関節面は,わずかな隆起によって各楔状骨に対応した3つの関節面に分かれます22)。
舟状骨の内側楔状骨に対する関節面はさらに 2 つに分かれることがあります22)。
中間楔状骨に対する関節面と外側楔状骨に対する関節面は平面かわずかに凹面である22)との記述があります(内側楔状骨については書かれていません)。
3つの関節面全体としては凸面ですが,それぞれの関節面は凸面ではないということのようです。
立方舟関節
- 舟状骨の外側面
- 立方骨の内側面の近位部1,6)
関節面の名称はないようです。
楔間関節(楔状骨間関節) intercuneiform joint
楔状骨間にある 2 つの関節です。
それぞれの関節の名称はないようです。
- 内側楔状骨の外側面
- 中間楔状骨の内側面
- 中間楔状骨の外側面
- 外側楔状骨の内側面
関節面の形状や名称についての記述はありません。
楔立方関節 cuneocuboid joint
- 外側楔状骨の外側面
- 立方骨の内側面
関節面の形状や名称についての記述はありません。
関節の分類
楔舟関節
- 可動性による分類:滑膜性関節(可動結合)6)
- 関節面の形状と動きによる分類:平面関節9)
- 運動軸による分類:記載なし
- 骨数による分類:複関節6)
「楕円状の関節である4)」という記述もあります。
立方舟関節
- 可動性による分類:線維結合または滑膜性関節1,5)
- 関節面の形状と動きによる分類:記載なし
- 運動軸による分類:記載なし
- 骨数による分類:単関節
楔間関節(楔状骨間関節) intercuneiform joint
- 可動性による分類:滑膜性関節(可動結合)20)
- 関節面の形状と動きによる分類:平面関節9,19)
- 運動軸による分類:記載なし
- 骨数による分類:単関節
楔立方関節 cuneocuboid joint
- 可動性による分類:滑膜性関節(可動結合)20)
- 関節面の形状と動きによる分類:平面関節19)
- 運動軸による分類:記載なし
- 骨数による分類:単関節
遠位足根間関節の靱帯
楔舟関節の靭帯
背側楔舟靭帯 dorsal cuneonavicular ligaments
舟状骨と各楔状骨をつなぐ靭帯であり,3 本あります。
- 近位付着部:舟状骨の背側面6)
- 遠位付着部:内側・中間・外側楔状骨の背側面6,7)
- 靱帯が緊張する動き:記載なし
底側楔舟靭帯 plantar cuneonavicular ligaments
舟状骨と各楔状骨をつなぐ靭帯であり,3 本あります。
- 近位付着部:舟状骨の底側面6)
- 遠位付着部:内側・中間・外側楔状骨の底側面6)
- 靱帯が緊張する動き:記載なし
後脛骨筋腱から分かれた線維が底側楔舟靭帯を補強しています20)。
舟状骨と内側楔状骨をつなぐ背側楔舟靭帯と底側楔舟靭帯は楔舟関節の内側でつながっています20)。
立方舟関節の靭帯
背側立方舟靭帯 dorsal cuboideonavicular ligament
- 近位付着部:舟状骨の背側面6)
- 遠位付着部:立方骨の背側面6)
- 靱帯が緊張する動き:記載なし
舟状骨から立方骨に向かって前外側方向に走ります20)。
カパンディ9)は背側立方舟靭帯を外背側靭帯 lateral dorsal ligament と呼んでいます。
底側立方舟靭帯 plantar cuboidnavicular ligament
- 付着部:舟状骨の底側面6)
- 付着部:立方骨の底側面6)
- 靱帯が緊張する動き:記載なし
前額面とほぼ平行に走ります20)。
カパンディ9)は底側立方舟靭帯を内底側靭帯 medial planter ligament と呼んでいます。
骨間立方舟靭帯20,21)
この靭帯の英語表記は見つけられませんでした。
- 付着部:舟状骨の外側面
- 付着部:立方骨の内側面
- 靱帯が緊張する動き:記載なし
舟状骨と立方骨が相対する面の関節面ではないところに付着します20)。
楔間関節(楔状骨間関節)の靭帯
背側楔間靭帯 dorsal intercuneiform ligaments
各楔状骨を背側面でつなぐ靭帯です。
- 付着部:内側楔状骨の背側面
- 付着部:中間楔状骨の背側面
- 靱帯が緊張する動き:記載なし
- 付着部:中間楔状骨の背側面
- 付着部:外側楔状骨の背側面
- 靱帯が緊張する動き:記載なし
付着部は背側面としましたが,文献6,7,20)には背側面に付着するとは明記されていません。
底側楔間靭帯 plantar intercuneiform ligaments
各楔状骨を底側面でつなぐ靭帯です。
- 付着部:内側楔状骨の底側面
- 付着部:中間楔状骨の底側面
- 靱帯が緊張する動き:記載なし
- 付着部:中間楔状骨の底側面
- 付着部:外側楔状骨の底側面
- 靱帯が緊張する動き:記載なし
付着部は底側面としましたが,文献6,7,20)には底側面に付着するとは明記されていません。
後脛骨筋腱からの線維が底側楔間靭帯を補強します20)。
中間楔状骨と外側楔状骨とのあいだの底側楔間靭帯は欠如することがあります23)。
骨間楔間靭帯 interosseous intercuneiform ligaments
各楔状骨の間にある靭帯です。
- 付着部:内側楔状骨の外側面
- 遠位付着部:中間楔状骨の内側面
- 靱帯が緊張する動き:記載なし
- 付着部:中間楔状骨の外側面
- 遠位付着部:外側楔状骨の内側面
- 靱帯が緊張する動き:記載なし
各楔状骨が相対する面の関節面ではないところに付着します20)。
楔立方関節の靭帯
背側楔立方靭帯 dorsal cuneocuboid ligament
- 付着部:外側楔状骨の背側面
- 付着部:立方骨の背側面
- 靱帯が緊張する動き:記載なし
付着部は背側面としましたが,文献6,7,20)には背側面に付着するとは明記されていません。
底側楔立方靭帯 plantar cuneocuboid ligament
- 付着部:外側楔状骨の底側面6)
- 付着部:立方骨の底側面6)
- 靱帯が緊張する動き:記載なし
後脛骨筋腱からの線維が底側楔立方靭帯を補強します20)。
骨間楔立方靭帯 interosseous cuneocuboid ligament
- 付着部:外側楔状骨の外側面
- 付着部:立方骨の内側面
- 靱帯が緊張する動き:記載なし
外側楔状骨と立方骨が相対する面の関節面ではないところに付着します20)。
遠位足根間関節の関節包
楔舟関節,楔間関節,楔立方関節の関節腔は互いに連絡しているひとつづきの関節腔で6,19),さらに第 2・第 3 足根中足関節の関節腔,中足間関節(第 2 中足骨と第 3 中足骨の間,第 3 中足骨と第 4 中足骨)の関節腔とも連絡しています。
この複数の関節に共通する滑膜を great tarsal synovial membrane20) と呼びます。
日本人体解剖学6)では,第 1 足根中足関節以外の足根中足関節とすべての中足間関節の関節腔は共通であるとしています。
遠位足根間関節の滑液包 6)
足部の滑液包は,どの関節に属しているのかを決められないものが多かったため,距腿関節についての記事で一括しています。
遠位足根間関節の運動
どの関節もわずかしか動きません。
各関節の運動軸と可動域については,今回調べた範囲ではわかりませんでした。
足部全体での回内・回外(三平面運動)では,各関節が少しずつ動いていると考えてよさそうです。
回内・回外の制限因子は靭帯と筋の緊張で,エンドフィールは結合組織性です13)。
楔舟関節の動きによって足部の内側縦アーチの彎曲が変化します9)。
楔間関節と楔立方関節の動きによって足部の横アーチの彎曲が変化します9)。
しまりの肢位(CPP)と最大ゆるみの肢位(LPP)
- CPP:最大回外位8)?
- LPP:最大回外と最大回内の中間位8)?
文献8)では足根部という表現になっており,遠位足根間関節にもあてはまるかどうかは不確かです。
関節内圧
今回調査した文献には遠位足根間関節の関節内圧に関する記述はありませんでした。
遠位足根間関節に作用する筋
今回調べた文献には,遠位足根間関節に作用する筋についての記述はありませんでした。
また,各関節の構成する骨同士をつなぐ筋はないため,各関節のみに作用する筋はないはずです。
遠位足根間関節をまたいでいてなんらかの作用がありそうな筋は,長腓骨筋,短腓骨筋,第三腓骨筋,長趾伸筋,後脛骨筋,長趾屈筋,前脛骨筋,長母趾伸筋,長母趾屈筋,短母趾伸筋,短趾伸筋,母趾外転筋,小趾外転筋,短趾屈筋,足底方形筋です。
脛骨に付着する筋はこちら。
腓骨に付着する筋はこちら。
足根骨に付着する筋はこちら。
中足骨に付着する筋はこちら。
足の指骨に付着する筋はこちら。
主な血液供給
今回調査した文献には遠位足根管関節への血液供給についての記述はありませんでした。
おそらくは,外側足底動脈,内側足底動脈,足背動脈,腓骨動脈あたりだと思います。
遠位足根間関節の感覚神経支配
「足根間関節と足根中足関節は深腓骨神経に支配される20)」という大まかな記述があるだけです。
髄節レベルについては,「それぞれの主要な関節は,おもに S1 と S2 の脊髄神経根に由来する複数の感覚神経の支配を受ける1)」と書かれています。
あわせて読みたい
横足根関節(距舟関節と踵立方関節)の解剖と運動:基本情報のまとめ
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1)P. D. Andrew, 有馬慶美, 他(監訳):筋骨格系のキネシオロジー 原著第3版. 医歯薬出版, 2020, pp651-712.
2)武田功(統括監訳): ブルンストローム臨床運動学原著第6版. 医歯薬出版, 2013, pp429-48.
3)久保俊一, 中島康晴, 田中康仁: 関節可動域表示ならびに測定法改訂について(2022 年4 月改訂). Jpn J Rehabil Med. 2021; 58: 1188-1200.
4)博田節夫(編): 関節運動学的アプローチ AKA. 医歯薬出版, 1997, pp37-39.
5)秋田恵一(訳): グレイ解剖学(原著第4版). エルゼビア・ジャパン, 2019, pp519-560.
6)金子丑之助: 日本人体解剖学上巻(改訂19版). 南山堂, 2002, pp212-221, 392-394.
7)長島聖司(訳): 分冊 解剖学アトラス I (第5版). 文光堂, 2002, pp216-279.
8)富雅男(訳): 四肢関節のマニュアルモビリゼーション. 医歯薬出版, 1995, pp163-184.
9)荻島秀男(監訳): カパンディ関節の生理学 II 下肢 原著第5版. 医歯薬出版, 1995, pp168-217.
10)山嵜勉(編): 整形外科理学療法の理論と技術. メジカルビュー社, 1997, pp36-61.
11)中村隆一, 斎藤宏, 他:基礎運動学(第6版補訂). 医歯薬出版株式会社, 2013, pp260-271.
12)井原秀俊, 中山彰一, 他(訳): 図解 関節・運動器の機能解剖 下肢編. 協同医書出版社, 2006, pp127-167.
13)木村哲彦(監修): 関節可動域測定法 可動域測定の手引き. 共同医書出版, 1993, pp102-113.
14)板場英行: 関節の構造と運動, 標準理学療法学 専門分野 運動療法学 総論. 吉尾雅春(編), 医学書院, 2001, pp20-41.
15)大井淑雄, 博田節夫(編): 運動療法第2版(リハビリテーション医学全書7). 医歯薬出版, 1993, pp165-167.
16)津山直一, 中村耕三(訳): 新・徒手筋力検査法(原著第10版). 協同医書出版社, 2022, pp278-305.
17)河上敬介, 磯貝香(編): 骨格筋の形と触察法(改訂第2版). 大峰閣, 2013.
18)寺山和雄, 片岡治(監修): 整形外科 痛みへのアプローチ 下腿と足の痛み. 南江堂, 1996, pp11-26.
19)森於菟, 小川鼎三, 他: 分担解剖学第1巻(第11版). 金原出版, 1983, pp170, 238-248.
20)Gray H, Lewis WH: Anatomy of the human body 21st edition. Lea & Febiger, 1924, pp354-361.
21)栗原修: 足部のバイオメカニクス I. 医道の日本. 2016; 75: 205-211.
22)Manners-Smith T. A Study of the Navicular in the Human and Anthropoid Foot. J Anat Physiol. 1907; 41: 255-279.
23)Castro M, Melão L, et al.: Lisfranc joint ligamentous complex: MRI with anatomic correlation in cadavers. AJR Am J Roentgenol. 2010; 195: W447-455. doi: 10.2214/AJR.10.4674.
2023 年 6 月 29 日
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