はじめに
趾節間関節 interphalangeal joints of foot(toes) の解剖(構造)と運動について基本的なところをまとめます。
第 1 趾(母趾)には,基節骨と末節骨からなる趾節間関節(interphalangeal joint : IP 関節)があります。
第 2 〜 5 趾には,基節骨と中節骨からなる近位趾節間関節(proximal interphalangeal joint : PIP 関節)と,中節骨と末節骨からなる遠位趾節間関節(distal interphalangeal joint : DIP 関節)があります。
9 つある関節は同じような構造です。
目次
- 趾節間関節を構成する骨と関節面
- 関節の分類
- 趾節間関節の靱帯
- 趾節間関節の関節包
- 趾節間関節の滑液包
- 趾節間関節の運動
- しまりの肢位(CPP)と最大ゆるみの肢位(LPP)
- 関節内圧
- 趾節間関節に作用する筋
- 主な血液供給
- 趾節間関節の感覚神経支配
趾節間関節を構成する骨と関節面
第 2 〜 第 5 近位趾節間関節
- 基節骨頭(凸面)
- 中節骨底(凹面)
第 2 〜 第 5 遠位趾節間関節
- 中節骨頭(凸面)
- 末節骨底(凹面)
第 5 遠位趾節間関節は癒着していることがあります7)。
ちなみに私の足は第 4 遠位趾節間関節も癒着しているようです。
母趾指節間関節
- 基節骨頭(凸面)
- 末節骨底(凹面)
各関節に共通して,骨頭は滑車状で内・外側は底側に突出しています2,21)。
また,関節面の適合性はよく,安定した関節です4)。
種子骨6,23)
母趾指節間関節の底側には種子骨が 1 個あります。
成人死体の肉眼解剖学的検索における出現頻度は 95.9% です。
矢状面でみると基節骨頭の底側にあります。
水平面では母趾指節間関節のほぼ中央やや外側にあります。
関節裂隙に平行な長楕円体に近い形です。
関節包の足底側を構成する fibrocartilagines plantares に,そのほぼ全体が埋没した形で存在し,末節骨底と基節骨頭とに接する面に関節軟骨があります(fibrocartilagines plantares は後述する蹠側板のことだと思いますが,文献の情報からは判断がつきませんでした)。
長母趾屈筋腱との結合はありません。
関節の分類
- 可動性による分類:滑膜性関節(可動結合)
- 関節面の形状と動きによる分類:蝶番関節2,4-6,11)
- 運動軸による分類:1 軸性
- 骨数による分類:単関節
母趾指節間関節は,種子骨も含めると複関節になるのかもしれません。
趾節間関節の靱帯
趾節間関節の靭帯は中足趾節関節の靭帯と似ていますが,中足趾節関節と比べると小さくて不明瞭です1)。
趾背腱膜については,中足趾節関節の記事にまとめています。
側副靭帯 collateral ligaments
各関節の内側と外側にあり,内側側副靭帯,外側側副靭帯とよぶこと11)もあります。
- 近位付着部:趾骨頭の側面
- 遠位付着部:趾骨底の側面
- 靱帯が緊張する動き:伸展20)あるいは屈曲13)
文献 1)には,側副靭帯が中足趾節関節のそれと同じように太いコード状の主線維と広い扇状の副線維に分かれている図がありますが,本文では明記されていません。
主線維と副線維に分かれるのであれば,副線維は蹠側板や種子骨に付着することになります。
靭帯が緊張する動きについては,文献13,20)によって逆になっています。
底側靭帯 plantar ligaments
- 近位付着部:趾骨頭の底側面2)
- 遠位付着部:趾骨底の底側面2)
- 靱帯が緊張する動き:伸展20)
蹠側板 plantar plate
趾節間関節の蹠側板に関する記述は少なく,中足趾節関節の蹠側板と比べて趾節間関節の蹠側板は小さくて不明瞭である1)ということしか分かりませんでした。
中足趾節関節の記事にも書きましたが,上述の底側靭帯と蹠側板はおそらくは同じものです。
趾節間関節の関節包
今回調査した文献には趾節間関節の関節包に関する詳しい記述はありませんでした。
趾節間関節の滑液包 6)
趾節間関節の底側には長・短母趾屈筋と長・短趾屈筋の腱を包む滑液鞘がありますが,その長さなどの正確な記述はありません。
趾節間関節の背側には滑液包が存在することがあるようなのですが,図に描かれているだけで,本文には説明がありません。
その他の足部の滑液包は,距腿関節についての記事でまとめています。
趾節間関節の運動
趾節間関節では,屈曲(底屈)と伸展(背屈)のみが生じます。
屈曲と伸展は矢状面における内外側軸での動きです。
趾節間関節の可動域については,記載がない文献も多く,充分に調べられていない印象があります。
第 2 〜 第 5 近位趾節間関節
- 屈曲の可動域(他動):35° 3,13,16)
- 屈曲の制限因子:背側の関節包と側副靭帯の緊張13)
- 屈曲のエンドフィール:結合組織性13)
制限因子とエンドフィールについては,文献 13)の表現が曖昧であり,不確かです。
側副靭帯は伸展で緊張するとの記述20)もあります。
第 5 趾の制限因子とエンドフィールは,軟部組織の圧迫による軟部組織性のこともあります13)。
- 伸展の可動域(他動):0° 3)
- 伸展の制限因子:底側の関節包と掌側板(掌側線維軟骨板)の緊張13)
- 伸展のエンドフィール:結合組織性13)
掌側板(掌側線維軟骨板)は蹠側板のことだと思いますが,不確かです。
伸展で側副靭帯が緊張するとの記述20)もあります。
第 2 〜 第 5 遠位趾節間関節
- 屈曲の可動域(他動):50° 3)
- 屈曲の制限因子:背側の関節包,側副靭帯と斜支帯靭帯の緊張13)
- 屈曲のエンドフィール:結合組織性13)
屈曲の可動域を 30° 13)あるいは 60° 16)としている文献もあります。
側副靭帯は伸展で緊張するとの記述20)もあります。
斜支帯靭帯は文献 13)のみにある名称で,詳細は不明です。
- 伸展の可動域(他動):0° 3)
- 伸展の制限因子:底側の関節包と掌側板(掌側線維軟骨板)の緊張13)
- 伸展のエンドフィール:結合組織性13)
伸展の可動域を 60° としている文献13)もあります。
掌側板(掌側線維軟骨板)は蹠側板のことだと思いますが,不確かです。
伸展で側副靭帯が緊張するとの記述20)もあります。
母趾指節間関節
- 屈曲の可動域(他動):60° 3)
- 屈曲の制限因子:軟部組織の圧迫または背側の関節包と側副靭帯の緊張13)
- 屈曲のエンドフィール:軟部組織性または結合組織性13)
屈曲の可動域を 90° 13,16)としている文献もあります。
側副靭帯は伸展で緊張するとの記述20)もあります。
- 伸展の可動域(他動):0° 3)
- 伸展の制限因子:記載なし13)
- 伸展のエンドフィール:記載なし
母趾指節間関節伸展の制限因子とエンドフィールについての記載がありません。
おそらく,制限因子は底側の関節包と蹠側板の緊張で,エンドフィールは結合組織性だと思います。
しまりの肢位(CPP)と最大ゆるみの肢位(LPP)
第 2 〜 第 5 近位・遠位趾節間関節
- CPP:最大伸展位2,8)
- LPP:軽度屈曲位2,8)
母趾指節間関節
文献 2)と文献 8)ともに表現が曖昧なのですが,おそらくは第 2 〜 第 5 趾と同じです。
関節内圧
今回調査した文献には趾節間関節の関節内圧に関する記述はありませんでした。
趾節間関節に作用する筋
解剖学的肢位で筋が求心性収縮をしたときの作用が主です。
主動作筋と補助動筋に分けていますが,その区別の基準は決まっていないようです。
ここでは主に徒手筋力検査法 16) を参考にして分けています。
はっきりしないものは補助動筋にしました。
第 2 〜 第 5 近位趾節間関節の屈曲に作用する筋
- 主動作筋
- 短趾屈筋
- 補助動筋
- 長趾屈筋
第 2 〜 第 5 近位趾節間関節の伸展に作用する筋
- 主動作筋
- なし
- 補助動筋
- 長趾伸筋
- 短趾伸筋(第 2 〜 第 4 趾)
- 虫様筋
- 背側骨間筋(第 2 〜 第 4 趾)
- 底側骨間筋(第 3 〜 第 5 趾)
徒手筋力検査法 16) では,どの筋も伸展の作用は補助的であるとされていました。
第 2 〜 第 5 遠位趾節間関節の屈曲に作用する筋
- 主動作筋
- 長趾屈筋
- 補助動筋
- 足底方形筋
第 2 〜 第 5 遠位趾節間関節の伸展に作用する筋
- 主動作筋
- なし
- 補助動筋
- 長趾伸筋
- 短趾伸筋(第 2 〜 第 4 趾)
- 虫様筋
- 背側骨間筋(第 2 〜 第 4 趾)
- 底側骨間筋(第 3 〜 第 5 趾)
徒手筋力検査法 16) では,どの筋も伸展の作用は補助的であるとされていました。
母趾指節間関節の屈曲に作用する筋
- 主動作筋
- 長母趾屈筋
- 補助動筋
- なし
母趾指節間関節の伸展に作用する筋
- 主動作筋
- 長母趾伸筋
- 補助動筋
- なし
趾節間関節の安定化に作用する筋
今回調査した文献には趾節間関節の安定化に作用する筋についての記述はありませんでした。
脛骨に付着する筋はこちら。
腓骨に付着する筋はこちら。
足根骨に付着する筋はこちら。
中足骨に付着する筋はこちら。
足の指骨に付着する筋はこちら。
主な血液供給22)
今回調査した文献に趾節間関節への血液供給に関する記述はありませんでしたが,以下の動脈が足趾にあります。
- 背側指動脈
- 固有底側指動脈
- 外側側底動脈の枝
趾節間関節の感覚神経支配
今回調査した文献に趾節間関節の感覚神経支配に関する十分な記述はありませんでしたが,「その他の足部関節は各関節を横断する神経枝によって支配される。それぞれの主要な関節は,おもに S1 と S2 の脊髄神経根に由来する複数の感覚神経の支配を受ける1)」との記述はあります。
足趾を走る神経には,背側指神経,固有底側指神経があります。
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スポンサーリンク参考文献
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2)武田功(統括監訳): ブルンストローム臨床運動学原著第6版. 医歯薬出版, 2013, pp429-481.
3)久保俊一, 中島康晴, 田中康仁: 関節可動域表示ならびに測定法改訂について(2022 年4 月改訂). Jpn J Rehabil Med. 2021; 58: 1188-1200.
4)博田節夫(編): 関節運動学的アプローチ AKA. 医歯薬出版, 1997, pp40.
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6)金子丑之助: 日本人体解剖学上巻(改訂19版). 南山堂, 2002, pp212-221, 392-394.
7)長島聖司(訳): 分冊 解剖学アトラス I (第5版). 文光堂, 2002, pp216-279.
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13)木村哲彦(監修): 関節可動域測定法 可動域測定の手引き. 共同医書出版, 1993, pp120-121.
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17)河上敬介, 磯貝香(編): 骨格筋の形と触察法(改訂第2版). 大峰閣, 2013.
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2023 年 10 月 17 日
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