はじめに
角膜反射 corneal reflex のやり方と結果の解釈について詳しく解説します。
目次
角膜反射とは
角膜反射は,角膜への触覚刺激で両眼の閉眼が生じる表在反射です。
求心路は三叉神経,中枢は橋,遠心路は顔面神経です。
検査方法の詳細
検査器具と事前の準備
清潔なガラス棒(眼科で薬を塗るために使うもの)で角膜を刺激します。
脱脂綿の先を細くしたものや,ティッシュをこより状に捻ったものを使うこともあります。
しかし,捻るということは,検者の手指の汚れを拭き取ることと同じようなことであり,汚れを拭き取ったティッシュで角膜に触れるのと同じようなことになりますので,あまり推奨できません。
コンタクトレンズを使用している場合は,当然,外しておきます。
刺激部位
角膜の辺縁部(虹彩)を刺激します(図 1)。
中心部(瞳孔)だと視覚刺激になってしまいます。
結膜の刺激でも閉眼はおこり,結膜反射と呼ばれますが,正常でも欠如することがあります。
*角膜はいわゆるくろ目,結膜はいわゆるしろ目です。
刺激方法
角膜に触れようとする検査器具が見えてしまうと,触覚刺激ではなく,視覚刺激によって閉眼してしまいます。
検者の指を注視させ,視線を上下左右のいずれか,あるいは検査する側の反対側上方にずらし,注視した側の反対側から検査器具を近づけます(図 1)。
角膜の損傷には十分に注意します。
ガラス棒やティッシュは寝かすようにし,先端で突くような方向では触れないようにします。
そして,できるだけゆっくり触れます。
開眼していない場合
意識障害があって閉眼していても,他動的に開眼して行うことができます。
閉眼を見るのではなく,眼輪筋の収縮を指で感じることになります。
検査結果の解釈
片方の眼の刺激でも両眼に反応が起こります。
両眼が同時に迅速に閉じるのが正常です。
三叉神経の検査として紹介されることが多い角膜反射ですが,角膜反射の減弱・消失は三叉神経,橋,顔面神経のいずれかの障害を表しています。
左右どちらを刺激してもやや減弱している場合は病的な状態ではないことがほとんどです。
コンタクトレンズ使用者は角膜反射が減弱する傾向にあります3)。
左右差があれば,病的な状態である可能性が高くなります。
求心路(三叉神経)の障害であれば,障害側を刺激したときには,両側の閉眼が減弱あるいは消失し,非障害側を刺激したときには,両側の閉眼が正常に起こります。
遠心路(顔面神経)の障害で眼輪筋の麻痺がある場合では,どちらの刺激でも,障害側の閉眼が減弱あるいは消失し,非障害側の閉眼は正常に起こります。
触れたときの感覚を尋ねれば,求心路の障害か遠心路の障害であるのかを鑑別するのに役立ちます2)。
触られているのが分からないのであれば,求心路(三叉神経)の障害である可能性が高いですし,触られているのが分かるのに閉眼しないのであれば,遠心路(顔面神経)の障害である可能性が高くなります。
意識障害や脳幹の障害では両側性に消失することがあります。
表情筋を支配する上位運動ニューロン障害によって角膜反射が減弱あるいは消失することがあります2)。
偽性球麻痺では,角膜の刺激によって外側翼突筋が収縮し,下顎が刺激側と反対側に動くことがあります(角膜下顎反射の亢進)2)。
反射弓の詳細
求心路
三叉神経の第 1 枝(眼神経)から鼻毛様体神経が分岐し,鼻毛様体神経の枝である長毛様体神経が角膜に分布します。
三叉神経脊髄路核の障害によって角膜反射が消失するため,角膜反射の入力刺激には痛覚線維が関与すると考えられています4)。
中枢
中枢は橋にあります。
三叉神経の痛覚線維は対側の視床に投射する途中の顔面神経核の近くで反射弓を形成すると推測されますが,反射経路はよく分かっていません4)。
また,大脳病変でも消失するため,多シナプス反射だと推測できます4)。
遠心路
遠心路は眼輪筋を支配する線維です。
眼輪筋上部は顔面神経の耳下腺神経叢から出る側頭枝に支配されます。
眼輪筋下部は顔面神経の耳下腺神経叢から出る頰骨枝に支配されます。
おわりに
角膜反射を理学療法士が行う機会はあまりないと思いますが,カルテや文献を読むうえで必要な知識になります。
反射の知識は解剖学や生理学を全体的に理解するうえで役に立ちますし,検査方法の詳細は他の検査にも応用が効くと思います。
三叉神経と顔面神経については以下の記事でまとめています。
参考文献
1)田崎義昭, 斎藤佳雄: ベッドサイドの神経の診かた(改訂18版). 南山堂, 2020, pp116-118.
2)岩田誠: 神経症候学を学ぶ人のために. 医学書院, 2004, pp33-34.
3)岩下達雄, 海野佳子: 三叉神経. 診断と治療. 2018; 106: 100-108.
4)鈴木則宏(編): 神経診療クローズアップ. メジカルビュー社, 2011, pp30-37.
5)金子丑之助: 日本人体解剖学上巻(改訂19版). 南山堂, 2002.
2021 年 7 月 23 日
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