はじめに
脛腓関節 tibiofibular joint の解剖(構造)と運動について基本的なところをまとめます。
近位脛腓関節 proximal tibiofibular joint と遠位脛腓関節 distal tibiofibular joint があります。
近位脛腓関節は上脛腓関節1,9),遠位脛腓関節は下脛腓関節2,9)とも呼ばれます。
近位脛腓関節のみを脛腓関節といい5,6),遠位脛腓関節は脛腓靭帯結合 tibiofibular syndesmosis ということ6,7)もよくあります。
脛腓関節は距腿関節(足関節)との関連がある関節です。
近位脛腓関節は膝関節の近くにありますが,膝関節に直接関わる機能はありません。
目次
- 脛腓関節を構成する骨と関節面
- 関節の分類
- 近位脛腓関節の靱帯
- 遠位脛腓関節の靱帯
- 脛腓関節の関節包
- 下腿骨間膜
- 脛腓関節の滑液包
- 脛腓関節の運動
- しまりの肢位(CPP)と最大ゆるみの肢位(LPP)
- 関節内圧
- 脛腓関節に作用する筋
- 主な血液供給
- 脛腓関節の感覚神経支配
脛腓関節を構成する骨と関節面
近位脛腓関節
- 脛骨外側顆後外側面の腓骨関節面
- 腓骨頭上内側面にある腓骨頭関節面
脛骨の腓骨関節面は後・下・外側を向き,腓骨の腓骨頭関節面は前・上・内側を向いています。
関節面の傾斜角度には個人差があり,horizontal type と oblique type に分類できます19,30)。
Horizontal type の関節面は,脛骨腓骨ともに平面で,腓骨がわずかに凹面のことがあります。
Oblique type の関節面は様々です。
半分は平面で,残りは腓骨が凸面になる場合と凹面になる場合が半々です30)。
Horizontal type の方が回旋の可動域は大きい傾向があります。
遠位脛腓関節
- 脛骨の腓骨切痕(凹面)
- 腓骨外果内側面の上部(凸面)
腓骨外果内側面の下部には距腿関節の関節面があります。
腓骨の遠位脛腓関節を形成する面の名称は教科書等には載っていないことが多いのですが,腓骨関節面としている文献9)はありました。
遠位脛腓関節を構成する面の遠位部は 3 つの部分に分かれます23)(近位部には後述の骨間靭帯があります)。
前方部分は線維脂肪組織で満たされています。
この前方部分には meniscoid23,25)があるのですが,それが線維脂肪組織と同じものであるのかは,文献からは分かりませんでした。
この線維脂肪組織は前脛腓靭帯とつながっています。
中間部分には関節軟骨があります。
この関節軟骨は欠ける場合があり,60.6% で欠けていたとする報告29)があります。
後方部分は滑膜ひだで満たされています。
関節の分類
近位脛腓関節
- 可動性による分類:滑膜性関節(可動結合)1,5)
- 関節面の形状と動きによる分類:平面関節4,9)
- 運動軸による分類:多軸性
- 骨数による分類:単関節
半関節としている文献4,6,7,8)もあります。
運動軸について明記している文献は見つかりませんが,平面関節は多軸性とすることが多いと思います。
遠位脛腓関節
- 可動性による分類:靱帯結合(不動結合)1,2)
- 関節面の形状と動きによる分類:非該当
- 運動軸による分類:非該当
- 骨数による分類:単関節
解剖学等のテキストでは靭帯結合に分類されていますが,関節軟骨があり(前述),その部分は滑膜関節です22,23)。
近位脛腓関節の靱帯
前腓骨頭靭帯 anterior ligament of head of fibula
Anterior proximal tibiofibular ligament33)あるいは anterosuperior tibiofibular ligament35)とも呼ばれます。
関節包の前面を補強する靭帯です。
- 近位付着部:脛骨外側顆前外側面,腓骨関節面の前方
- 遠位付着部:腓骨頭前面
- 靱帯が緊張する動き:記載なし
4 つの線維束(superior bundle,middle superior bundle,middle inferior bundle,inferior bundle)があります31)。
3 つの線維束(superior bundle,upper middle bundle,lower middle bundle)としている文献33)もあります。
靭帯が緊張する動きについても記載がありませんが,しまりの肢位である膝関節完全伸展位で緊張するのかもしれません。
大腿二頭筋腱と融合していて区別できないことがあります34)。
後腓骨頭靭帯 posteior ligament of head of fibula
posterior proximal tibiofibular ligament33)あるいは posterosuperior tibiofibular ligament35)とも呼ばれます。
関節包の後面を補強する靭帯です。
- 近位付着部:脛骨外側顆後面
- 遠位付着部:腓骨頭後面
- 靱帯が緊張する動き:記載なし
3 つの線維束(superior bundle,middle bundle,inferior bundle)があります31,33)。
Inferior bundle は,腓骨頸と脛骨ヒラメ筋線のすぐ上をつなぐ靭帯33)で,出現率は 20%31)です。
靭帯が緊張する動きについても記載がありませんが,しまりの肢位である膝関節完全伸展位で緊張するのかもしれません。
その他の靭帯
膝関節の靭帯である,外側側副靭帯,弓状膝窩靱帯,膝窩腓骨靭帯は腓骨頭に付着しており,近位脛腓関節に関連する靭帯です。
遠位脛腓関節の靱帯
骨間靭帯(骨間脛腓靭帯28))
英語名は,interosseous ligament1,24),tibiofibular interosseous ligament22),interosseous tibiofibular ligament23) など様々です。
下腿骨間膜が遠位に延びたもので,遠位脛腓関節を最も強固に保持する靭帯です1,2)。
- 近位付着部:脛骨の腓骨切痕28)
- 遠位付着部:腓骨の外果関節面より近位にある粗面28)
- 靱帯が緊張する動き:距腿関節の背屈25)
関節裂隙の近位部を埋めるように存在する靭帯です。
前後方向に広がります。
主たる線維群の付着部については,「腓骨側では骨間膜最下端あるいは骨間縁下端後方付近を頂点とし,前方への線維は短く後方への線維は滑膜絨毛の上方まで長く,それぞれ下方に向かって分布していた。脛骨側の前方の線維は腓骨切痕の前縁に付着もしくは骨間膜に移行し,後方の線維は後縁に付着していた29)」という報告があります。
また,「主たる線維群とは別に,前方の靭帯線維の下方,外果関節面上縁との間に細く,粗な線維群を有する29)」場合があります。
付着部については,文献1,22-25,28,29)によって,少しずつ異なる表現となっており,上記の付着部も正確ではないのかもしれません。
下腿骨間膜と骨間靭帯の間に明確は境界はありません25,28)。
また,骨間靭帯と後脛腓靭帯も連続しています23,25)。
骨間靭帯と前脛腓靭帯については分かれているとしている文献25)と,連続しているとしている文献28)があります。
前脛腓靭帯 anterior tibiofibular ligament(distal anterior tibiofibular ligament)
前下脛腓靭帯12,21) anterior inferior tibiofibular ligament とも呼ばれます。
遠位脛腓関節の前方で,脛骨から腓骨に向かって下外側に斜走する靭帯です。
- 近位付着部:脛骨遠位端前面(Chaput 結節28))
- 遠位付着部:腓骨外果前面(Wagstaffe 結節28))
- 靱帯が緊張する動き:距腿関節の背屈25)
上部,中間,下部の三つの線維束からなります21-23,25)。
Bassett’s ligament
前脛腓靭帯の下を平行に走る靭帯で,前脛腓靭帯の accessory ligament です21,25)。
- 近位付着部:前脛腓靭帯の遠位の線維に融合25)
- 遠位付着部:前脛腓靭帯の付着部の下内側25)
- 靱帯が緊張する動き:記載なし
欠ける場合があります。
後脛腓靭帯 posterior tibiofibular ligament(distal posterior tibiofibular ligament)
後下脛腓靭帯12,21) posterior inferior tibiofibular ligament とも呼ばれます。
遠位脛腓関節の後方で,脛骨から腓骨に向かって下外側に斜走する靭帯です。
前脛腓靭帯と比べるとより水平に走ります。
- 近位付着部:脛骨遠位端後面内側(後果,Volkmann 結節28))
- 遠位付着部:腓骨外果後面
- 靱帯が緊張する動き:距腿関節の背屈9,25)
腓骨への付着部を長・短腓骨筋の滑車部分としている文献28)がありますが,その滑車部分(腓骨果溝)のどこに付着しているのかは分かりません。
遠位付着部を腓骨外果後角と表現している文献18)もあります。
下横脛腓靭帯 inferior transverse tibiofibular ligament28)
下横靱帯 inferior transverse ligament1),Transverse ligament25),あるいは transverse tibiofibular ligament26)とも呼ばれます。
後脛腓靭帯の深層線維に分類する場合もあります18,25,27)。
あるいは,後距腓靭帯の一部とする場合もあります1)。
- 腓骨の付着部:外果窩の近位側の縁25)
- 脛骨の付着部:遠位端背側のへり25)
- 靱帯が緊張する動き:記載なし
後距腓靭帯の一部の線維が下横脛腓靭帯に融合したものは,tibial slip または intermalleolar ligament(posterior intermalleolar ligament) 呼ばれます25,26)。
その他の靭帯
足部の靭帯で腓骨に付着する,前距腓靭帯,後距腓靭帯,踵腓靭帯は,遠位脛腓靭帯に関連する靭帯です。
脛腓関節の関節包
関節包があるのは近位脛腓関節です。
関節包は関節面のすぐ近くに付着します32)。
膝関節の関節腔とは交通する場合があり1,8),その頻度は約 10% 19) 〜 64.3%34)です。
膝窩筋下陥凹(膝関節の滑液包)を介して交通します32)。
遠位脛腓関節については,教科書等には書かれていません。
しかし,遠位脛腓関節の一部は滑膜関節であり,関節包はあるはずです。
距腿関節の滑膜のひだが遠位脛腓関節に入りこんでいるという記述12)がありますし,様々な図から想像するに,遠位脛腓関節の関節包や関節腔は,距腿関節のものと連続しているのではないでしょうか?
下腿骨間膜 interosseous membrane of leg, crural interosseous membrane
脛骨の骨間縁と腓骨の骨間縁のあいだにはっている線維性結合組織の膜です5,6)。
主な線維は脛骨から腓骨に向かって斜めに下行します。
上部と下部に開口部があり,血管が通ります。
脛骨と腓骨を連結するだけでなく,筋が付着できる面積を増大させます。
脛腓関節の滑液包 6)
教科書等に脛腓関節の滑液包に関する記述はありません。
前述の膝窩筋下陥凹は近位脛腓関節の滑液包としてもいいのかもしれません。
他にも,膝関節や足部の滑液包の一部で,脛腓関節に関連するものがあるかもしれません。
脛腓関節の運動
脛腓関節単独での運動はなく,膝関節4)や足部の運動に連動して動きます。
近位脛腓関節と遠位脛腓関節は一つの腓骨でつながっていますから,それぞれが単独で動くことはありません。
両脛腓関節で生じる動きや腓骨の動きに関しての系統だった記述はなく,運動の名称についても統一されたものはありません。
近位脛腓関節は,転がりと滑りが可能2,8)で,関節面に沿った全ての方向への滑りが可能です12)。
遠位脛腓関節で生じる関節包内運動については記述がありません。
腓骨の長軸周りでの回転は内外旋と呼ばれます。
腓骨回旋時に両脛腓関節がどのように動くのかは分かりません。
腓骨の上昇・下降については,近位脛腓関節で腓骨頭が後外方へ滑ることで腓骨は上昇する12)ということ以外は分かりません。
腓骨の遠位部が脛骨から離れる動きは外転,近づく動きは内転です2)。
このとき近位脛腓関節でどのような動きが生じるのかについては明記されていませんが,近位脛腓関節が軸になって遠位脛腓関節が広がると解釈できる図9)があります。
腓骨の可動範囲に関しては,距腿関節が底屈位から背屈位になるときに腓骨が 30° 以上内旋する9),ということしか分かりませんでした。
近位脛腓関節のエンドフィールは靭帯の伸張によるもので,結合組織性です2)。
遠位脛腓関節のエンドフィールについての記述はありません。
距腿関節の底背屈に伴う腓骨の動き
距腿関節が背屈すると,腓骨の遠位部が脛骨から離れるように外転し,上方(近位側)に移動します。
回旋については一定の見解が得られていません。
文献によって,背屈に伴って内旋する2,9),外旋する10,22,32),回旋しない18,20),個体差があり内旋と外旋がほぼ同率で存在する18)などと様々です。
底屈時には逆の動きになります。
距骨の関節面(距骨滑車)の幅は前方の方が広くなっています。
背屈位では,その広い面が内果と外果の間に入ることで,内果と外果を引き離す方向の力がかかり,その力によって腓骨が動きます。
腓骨が脛骨から離れるとき,下腿骨間膜(脛骨から腓骨に向かって下行)の緊張によって腓骨が引き上げられます9)。
膝関節の運動に伴う腓骨の動き
膝関節屈曲で外側側副靭帯と大腿二頭筋が弛緩すると腓骨頭は前方に移動します。
逆に,膝関節伸展で外側側副靭帯と大腿二頭筋が緊張すると腓骨頭は後方に移動します19)。
しまりの肢位(CPP)と最大ゆるみの肢位(LPP)
Kaltenborn の著書8)では以下のようになっていますが,どちらの脛腓関節なのかが明記されていません。
- CPP:距腿関節最大背屈位
- LPP:距腿関節 10° 底屈位
AKAの本4)では,近位脛腓関節の CPP,LPP として以下のようになっています。
- CPP:膝関節完全伸展位
- LPP:膝関節軽度屈曲位(60〜90°)
関節内圧
教科書等で脛腓関節の関節内圧に関する記述はありません。
関節腔が膝関節とつながっている場合には膝関節の関節内圧の影響を受けるかもしれません。
脛腓関節に作用する筋
脛腓関節のみが動くということがないため,狭い意味での脛腓関節に作用する筋はありません。
ただし,膝関節や足部の関節に作用すると同時に脛腓関節にも作用する筋はあります。
後脛骨筋は脛骨と腓骨の両方に付着しており,脛骨と腓骨を近づける作用があります。
距腿関節底屈時に後脛骨筋が働くと,腓骨は内転します9)。
腓骨に付着して足部に作用する筋は,腓骨を引き下げ外旋する作用があります12)。
ヒラメ筋や長母趾屈筋は腓骨に付着しますが,これらの筋が実際に腓骨に作用することが確認されたという情報はありません。
脛腓関節の安定化に作用する筋1,2)
大腿二頭筋は,近位脛腓関節の関節包に付着し,主に前面32)の関節包を補強することで,近位脛腓関節の安定化に作用します。
また,膝窩筋腱も近位脛腓関節の後側面を走行することで,この関節の安定化に作用します1,2)。
遠位脛腓関節の安定化に作用する筋については情報がありません。
主な血液供給
近位脛腓関節
- 前脛骨反回動脈
- 後脛骨反回動脈
いずれも前脛骨動脈の枝です。
文献32)では上述の 2 つの動脈ということになっていますが,他の動脈の血液供給は受けないとは書いてありません。
解剖学の教科書の図36)を見ると,他の動脈も加わるような気がします。
遠位脛腓関節の前面27)
- 腓骨動脈の貫通枝
- 前脛骨動脈の枝
これらの血管の組み合わせで 3 つのパターンがあります。
一つは,腓骨動脈の貫通枝のみから血液供給を受ける場合です。
そして,腓骨動脈貫通枝と前脛骨動脈の枝の両方から血液供給を受ける場合,腓骨動脈貫通枝が主である場合と,前脛骨動脈の枝が主である場合に分かれます。
前脛骨動脈の枝は,他の文献36,37)の情報を加味して考えると,前外果動脈であるようです。
遠位脛腓関節の後面27)
- 腓骨動脈
- 後脛骨動脈の枝
腓骨動脈のみから血液供給を受ける場合と,腓骨動脈に加えて後脛骨動脈からの細い枝からも血液供給を受ける場合に分かれます。
脛腓関節の感覚神経支配1,5)
近位脛腓関節32)
- 総腓骨神経
- 脛骨神経(膝窩筋を支配する枝)
髄節レベルは不明です。
遠位脛腓関節
情報なし
おわりに
解剖学や運動学の教科書では,脛腓関節のことは詳しく書かれていません。
また脛腓関節に関する論文も少ないようです。
参考にした論文にはサンプルサイズが小さいものが含まれます。
そのため,この記事に書いた内容の正しさに関しては多少の不安があります。
今後の研究の進展に期待したいと思います。
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スポンサーリンク参考文献
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2022 年 7 月 20 日
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