はじめに
聴覚の伝導路について簡単に説明したいと思います。
目次
聴覚伝導路の概要
有毛細胞 → 蝸牛神経 → 蝸牛神経核 → 交叉(内側上オリーブ核) → 外側毛帯 → 下丘 → 下丘腕 → 内側膝状体 → 聴放線 → 横側頭回
この聴覚伝導路に関する表現は文献によって異なります。
示しているものは同じでも,どの要素をどれくらい細かく表現するかで変わります。
ですので,各要素が何であるのかを理解していないと,表現が変わったときに分からなくなってしまいます。
また,試験では,単語の文字だけを丸暗記していて,例えば,下丘が何であるのかは知らないなどということになってしまいがちです。
そういう知識は,すぐに忘れてしまい,役に立ちません。
そこで,各要素が具体的に何であるのかを簡単に説明していきたいと思います。
有毛細胞(受容器)
聴覚の受容器,すなわち,音を神経の電気信号に変換するところは有毛細胞です。
有毛細胞は,名前の通り,毛のような突起(感覚毛)が多数伸びている細胞です。
この有毛細胞の根元に蝸牛神経が接しています。
感覚毛が音によって動かされると,有毛細胞で活動電位が発生し,それが蝸牛神経に伝わります。
有毛細胞はコルチ器という器官の一部です。
コルチ器は蝸牛の中にあります。
蝸牛は内耳にある聴覚に関わる器官です。
内耳は,耳の最深部で側頭骨の中にあり,骨迷路と膜迷路からなります。
骨迷路は側頭骨の中にある管状の空間で,その中に膜迷路があります。
そして,膜迷路は聴覚に応答する蝸牛と,重力や頭の傾きに応答する半規管・耳石器からなります。
ちなみに,蝸牛とはカタツムリのことです。
蝸牛は巻貝の形をしています。
蝸牛神経
聴覚の電気信号が最初に伝わるのは蝸牛神経です。
つまり,蝸牛神経は,聴覚の一次ニューロンです。
蝸牛神経は双極性で,その末梢性突起が有毛細胞とつながっています。
蝸牛神経の細胞体が集まったものはらせん神経節と呼ばれます。
らせん神経節は,蝸牛の中にあります。
そして,中枢性突起が集まって蝸牛神経となり,脳幹に向かいます。
蝸牛神経は内耳道を通って頭蓋腔内に入ります。
橋-延髄境界部から延髄に入り,背側蝸牛神経核と腹側蝸牛神経核につながります。
背側蝸牛神経核と腹側蝸牛神経核
蝸牛神経核は聴覚の二次ニューロンの細胞体が集まったものです。
名前から間違われやすいのですが,蝸牛神経の細胞体ではありません。
蝸牛神経の細胞体は前述のらせん神経節です。
蝸牛神経核からでた線維は下丘(中脳)に向かいます。
その経路は複数あり,複雑で分かっていないことも多いようです。
交叉
腹側蝸牛神経核からでた線維はすぐに交叉して反対側に行きます。
その交叉していく線維は台形体と呼ばれます。
背側蝸牛神経核からの線維も台形体とは別に交叉します。
交叉は橋と延髄の境界部の高さで行われることになります。
交叉せずに上行する経路もあります1,3)。
交叉していく間に,一部の線維は,上オリーブ核群で次の神経に中継されます。
上オリーブ核群として,台形体背側核,台形体腹側核,内側上オリーブ核があります。
内側上オリーブ核は両側の蝸牛神経核からの線維を受け取ります。
外側毛帯
交叉した後は上行します。
その上行する神経の束が外側毛帯です。
外側毛帯は橋の下端近くから始まり,橋背部(橋被蓋)の外側を上行し,中脳の下丘で終わります。
外側毛帯の途中に外側毛帯背側核があり,一部の線維は次の神経に中継されます。
下丘
下丘は中脳にある神経核で,中脳背側表面にある円形の隆起です。
下丘でも次の神経に中継されます。
下丘は,聴覚情報を統合的に処理する最初の神経核と考えられています5)。
下丘腕
下丘から出た線維は視床の内側膝状体に向かいます。
その線維束は下丘腕と呼ばれています。
下丘腕も中脳背側表面の隆起として見ることができます。
内側膝状体
内側膝状体は視床にある核の一つです。
視床表面の隆起として観察できます。
ここでも聴覚情報の処理が行われているのですが,その詳細は分かっていないようです。
聴放線
内側膝状体から始まる線維は聴放線と呼ばれています。
内包後脚を通り,側頭葉白質を上がっていき,大脳皮質の第 1 次聴覚野に投射します。
横側頭回
第 1 次聴覚野はブロードマン第 41 野で横側頭回(ヘシュル横回)にあります1)。
横側頭回は側頭葉の上部で,シルビウス裂の中にあります。
第 2 次聴覚連合領は,ブロードマン第 42 野と第 22 野です1)。
ブロードマン第 42 野も横側頭回にあります。
ブロードマン第 22 野は上側頭回にあります。
また,ブロードマン第 22 野には,有名なウェルニッケ言語中枢があります。
第 1 次聴覚野や第 2 次聴覚連合領という用語は使わず,聴覚野としている文献6,7)もあります。
その場合,聴覚野はブロードマン第 41 野と第 42 野になっています。
理学療法士国家試験
関連する国家試験問題を紹介します。
第 56 回理学療法士国家試験 午前 問題 24
感覚機能について正しいのはどれか。
1.聴覚路は上側頭回に至る。
2.視覚路は内側膝状体を通る。
3.深部覚は脊髄視床路を上行する。
4.痛覚は脊髄内で後索を上行する。
5.味覚は副神経を経由して伝わる。
正解 1
解説
ちょっとグレーな問題です。
1.聴覚路は横側頭回までとすると解なしになります。
横側頭回は上側頭回の一部として扱われる(ウィキペディア情報です,,,)ことがあります。
また,第 2 次聴覚連合領であるブロードマン第 22 野は上側頭回にあり,これを聴覚路に含めることも可能です。
これらのことから,上側頭回で正解ということになるのかもしれません。
2.視覚路は外側膝状体を通ります。
3.深部覚は後索を上行します。
4.痛覚は脊髄内で外側脊髄視床路を上行します。
5.味覚は顔面神経と舌咽神経を経由します。
おわりに
聴覚路の全体を示すイラストを描いてみようと思ったのですが,立体的な切断面を斜め方向から見たイラストが必要になり,解剖学的に正確なイラストにするための情報を得ることができず,断念しました。
それに,そもそも正確な経路が分かっていないものを最終的にどう描くかという落とし所が分かりませんでした。
参考文献
1)平田幸男(訳): 分冊 解剖学アトラス III 神経系と感覚器(第6版). 文光堂, 2011, pp366-385.
2)金子丑之助: 日本人体解剖学上巻(改訂19版). 南山堂, 2002.
3)馬場元毅: 絵でみる脳と神経 しくみと障害のメカニズム 第3版. 医学書院, 2012.
4)岡田泰伸(監修): ギャノング生理学 原著25版. 丸善出版, 2017, pp239-257.
5)本間研一(監修): 標準生理学 第9版. 医学書院, 2019, pp258-280.
6)後藤登, 藤原孝之: 神経伝導路 3:特殊知覚伝導路. 理学療法. 2013; 30: 729-736.
7)真島英信: 生理学. 文光堂, 1993, pp237-238.
8)Brodmann K: Vergleichende Lokalisationslehre der Grosshirnrinde in ihren Prinzipien dargestellt auf Grund des Zellenbaues. J.A. Barth, 1909, pp131.
2021 年 5 月 11 日
2024 年 11 月 4 日
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